大阪地方裁判所 平成7年(ワ)8009号 判決
原告
甲野花子
同
乙山春子
右両名訴訟代理人弁護士
本多淳亮
同
吉岡良治
同
渡辺和恵
同
宮地光子
同
長岡麻寿恵
同
小林徹也
同
真継寛子
同
角野とく子
同
細見茂
同
野仲厚治
同
池田直樹
同
小山操子
被告
住友電気工業株式会社
右代表者代表取締役
岡山紀男
右訴訟代理人弁護士
高坂敬三
同
夏住要一郎
同
岩本安昭
被告
国
右代表者法務大臣
保岡興治
右指定代理人
草野功一
外七名
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一 請求
一 被告住友電気工業株式会社に対する主位的請求
1 被告住友電気工業株式会社は、原告らに対し別紙1請求金一覧表の「請求金合計」欄記載の各金員及び別紙2遅延損害金一覧表記載の「請求金内金」ごとに同表「起算日」欄記載の日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告住友電気工業株式会社は、原告らに対し、平成一一年六月以降毎月二五日限り、別紙1請求金一覧表の「差額賃金(月額)」欄記載の各金員及びこれに対する各支払日の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告住友電気工業株式会社に対する予備的請求
1 第一次的予備的請求
(一) 被告住友電気工業株式会社は、原告らに対し別紙3請求金一覧表①の「請求金合計」欄記載の各金員及び別紙4遅延損害金一覧表①記載の請求金内金ごとに同表「起算日」欄記載の日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 被告住友電気工業株式会社は、原告らに対し、平成一二年三月以降毎月二五日限り、別紙3請求金一覧表①の「差額賃金相当損害金(月額)」欄記載の各金員及びこれに対する各支払日の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 第二次的予備的請求
(一) 被告住友電気工業株式会社は、原告らに対し別紙3請求金一覧表②の「請求金合計」欄記載の各金員及び別紙5遅延損害金一覧表②記載の請求金内金ごとに同表「起算日」欄記載の日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 被告住友電気工業株式会社は、原告らに対し、平成一二年三月以降毎月二五日限り、別紙3請求金一覧表②の「差額賃金相当損害金(月額)」欄記載の各金員及びこれに対する各支払日の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告国に対する請求
被告国は、原告ら各自に対し、金一〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件のうち、被告住友電工株式会社に対する訴えは、同社女子社員である原告らが、主位的に、同社から、同時期入社の同学歴の男子社員との間で昇給、昇進等に関し不利益な処遇を受けてきたが、これは違法な男女差別であり不法行為または債務不履行に該当すると主張して、同時期入社、同学歴男子社員との賃金格差相当額の損害賠償等の支払を求め、予備的に、仮に、右のような男女別処遇が、当初は違法とまでいえないものであったとしても、社会意識の変化等によりその後は違法となったのに、男女間格差を放置したことは是正義務違反の不法行為または債務不履行に該当すると主張して、是正義務発生後の賃金格差相当額の損害賠償等の支払を求めた事案であり、被告国に対する訴えは、原告らが被告住友電工株式会社を相手方として行った男女差別の紛争に関する調停申請に対し、被告国の機関である大阪婦人少年室長が調停不開始の決定をしたことに関し、原告らが、右決定は裁量権を濫用したものであり、原告らの調停を利用する機会を侵害したと主張し、国家賠償法に基づいて、被告国に慰藉料等の支払を求めた事案である。
一 前提事実(関係する当事者間に争いのない事実及び証拠上明らかな事実)
1 当事者等
(一) 被告住友電気工業株式会社(以下「被告会社」という。)は、電線、特殊金属線等の製造、販売を目的とする会社であって、主な事業所としては、大阪、東京の二本社のほか、大阪市に大阪製作所、伊丹市に伊丹製作所、横浜市に横浜製作所、名古屋市に名古屋製作所、栃木県鹿沼市に関東製作所を有し、平成一二年三月三一日現在、資本金は九六一億円余りであり、社員数一万三八六八人(このうち男子は一二、三七五人、女子は一、四九三人である。)を擁している。
(二) 原告甲野は、昭和四四年三月に被告会社に入社し、経理部に配属され、平成元年七月の組織改訂により財務部配属となり、現在も同部に所属している。
原告乙山は、昭和四一年三月に被告会社に入社し、人事部労政課に配属され、昭和五〇年一〇月に情報システム部コンサルタント室に配置換えとなり、平成元年七月の組織改訂により同部情報処理課(その後同部情報システム企画課に名称変更)配属となり、現在も同課に所属している。
(三) 被告国は、大阪府における労働省の地方支部部局として大阪婦人少年室(平成九年法律第九二号による改称前の名称。その後、法改正により、大阪労働局雇用均等室に改称。)を設置し、その長として同室長を置いていた。
大阪婦人少年室長は、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」(平成九年法第九二号による改正前のもの。以下「均等法」という。)一五条により、雇用の分野における女子労働者と事業主間の紛争について、所定の要件のもとに、大阪府婦人少年室に設置されている機会均等調停委員会に対して調停を行わせるか否かを決定する権限を有した。
均等法に関しては、同法の委任に基づき被告国が同法施行規則(昭和六一年労働省令第二号。以下「施行規則」という)を定めていたほか、労働大臣が同法一二条の規定に基づき「事業主が講ずるように努めるべき指針」(昭和六一年労働省告示第四号。同指針は、平成六年四月に一部改正施行された。以下、これを「指針」という。なお、指針は平成九年の均等法改正を受けて廃止された。)を定めていた。
2 被告会社の賃金制度
(一) 月例の賃金
被告会社の社員の賃金は、基準内賃金と基準外賃金とに分かれ、基準内賃金は、本俸、生産奨励金、職務加給、家族手当及び家賃補助手当によって構成され、基準外賃金は、早出残業手当、休日出勤手当等からなる。
基準内賃金を構成する項目の内容は次のとおりである。
(1) 本俸は、一般に基本給といわれるものであって、初任本俸は職種ごとに一定(初任給テーブル)の基準でその額が定められるが、それ以降は、毎年一月一日に定期昇給がなされることになっている。
(2) 生産奨励金は、各人の本俸に一定の係数を乗じてその額が算出されるが、この係数は、毎年の春闘において労使間で決定され、その係数は全員一律である。生産奨励金は、本俸と異なり退職金に反映されない。
(3) 職務加給は、社員の従事する職務の内容に応じて支給される賃金であり、下位から一級、二級、三級、四級A、四級B、五級、六級A、六級B、七級A、七級B、七級Cの一一段階の「職級」が設けられ、さらに各職級内において、発揮された技術練度を基準として、一号ないし五号(ただし、職級によって多少異なる。)までの「職級内区分」が定められている。職務加給は、各職級ごとに異なり、上位の職級、同じ職級内でもより上位の職級内区分になるほど、職務加給額は高くなる。
各社員に対する職務加給の格付は毎年二月及び八月に見直される。
(4) 家族手当は、扶養家族の数に応じて支払われる手当であり、勤務成績等が反映される余地はない。
(5) 家賃補助手当は、賃貸住宅等に居住している世帯主社員に対し、家賃額に応じて支給される手当であり、勤務成績等が反映される余地はない。
なお、毎年春のベースアップが加わるため、社員の基準内賃金は毎年一月(定期昇給)、二月(職務加給の定例見直)、四月(ベースアップ)、八月(職務加給の定例見直し)に変動することになる。
(二) 期末賞与(一時金)
被告会社では、毎年六月二〇日及び一二月一〇日に期末賞与を支給するのが通例とされている。
期末賞与は、「賞与」部分と「臨時特別手当」部分とからなり、このうち「賞与」には所定期間の通常出勤者に支給される最低保障(平成七年夏季分でいえば、本俸一〇〇パーセント)が設けられるほか、これに半年毎の考課査定の結果、成績優秀者に「加算」が行われる。
「臨時特別手当」は、(本俸+職務加給)×その年に労使で決定した係数+付加(扶養家族数に応じた一律支給額)の算式で算定され、考課査定による増減部分はない。
3 被告会社における職種及び職分の概要
(一) 被告会社では、昭和二八年ころ、職掌、職種及び職分に関する規程(乙一六)によって、職種及び職分制度が導入され、昭和四一年及び昭和六二年の職種及び職分に関する規程(乙一七、一八)により大きな改訂を行って現在に至っている(以下では、昭和四一年制度以前の制度を「旧制度」、昭和四一年の改定による制度を「昭和四一年制度」、昭和六二年の改定による制度を「現行制度」という。)。
職種及び職分制度では、社員の仕事が数種類の職種に分類され、さらに、各職種ごとに職種内区分である職分が段階的に設けられている。
昭和四一年制度では職種は、管理職、専門職、事務職、作業職、保安職、庶務職、医務職に分けられ、各職種ごとに職分が設けられていた。
現行制度における職種は、経営職、管理職、技術職、一般職、専任職に分けられており、各職種に従事する社員の分類基準及び各職種の職分等は次のとおりとされている。
(1) 経営職とは、会社業務に関する特別に高度の知識、経験を有し、かつ、部門の長あるいはこれと同等の職責を有する者で、全般的経営の見地から所管業務の円滑かつ有効な遂行につき責任を負う者をいい、概ね支配人以上の者がこれに属する。
(2) 管理職とは、業務規程に定められた単位組織の長としてその組織の業務全般を管理し、または、特定範囲の高度の責任を有する専門的業務に従事して、所管業務の運営について責任を負う者をいう。
(3) 専門職とは、高度の科学的かつ理論的専門知識を駆使しながら、担当業務での問題を考察し、適切な対策を立て、調査、研究、開発、企画、設計、調整、監査及び対内外折衝等の業務を行う者をいう。
(4) 技術職とは、一般的な技術知識及び業務に関連して習得した生産技術等を基として、規程、標準、前例等を応用し、生産または開発、設計、工程管理、コンピュータ等の業務で反復継続的な技術的業務を行う者をいう。
(5) 一般職とは、一般的な基礎知識及び業務に関連して習得した実務知識または特定の資格、技能を基として、規程、標準、前例等を応用し、計算、記帳、統計、コンピュータ等の事務的業務、警備、防災、防犯等の保安業務、車輛運転、受発信、電話交換等の業務、看護保健等医師を補助する業務等の反復継続的な業務を行う者をいう。
(6) 専任職とは、五七歳に到達した者で、それ以前の業務上の知識経験を基に会社が指定する特定の業務に従事する者である。専任職には職分はない。
また、職種職分制度には、職種転換の制度が設けられており、現行制度では、「業務上の必要により、他の職種に属する職務に分担業務の変更を命じた」者または「必要ある場合は転換審査を実施した結果、適当と認められた者」について職種及び職分を転換させることとされており、この点は昭和四一年制度でも同様であった。
(二) 旧制度から現行制度に至るまでの、各職種及び職分は別紙6「職種職分表1ないし3」記載のとおりであり、経営職及び管理職を除く社員の職種の変遷経過(対応関係)は別紙7「住友電工における職種の変遷」記載のとおりである(ただし、同別紙のうち、昭和四一年改訂前の作業社員には養成工のほか作業員が存した。また、専任職は昭和五五年に導入された。)。
昭和四一年制度における専門職及び事務職、現行制度における専門職及び一般職の各職分任用基準は、それぞれ別紙8「昭和四一年制度任用基準」、別紙9「現行制度任用基準」記載のとおりである。
4 職種及び職分制度の運用
(一) 昭和四一年制度から現行制度への移行に当たっては、事務職は一般職に、事務職二級は一般職二級に、事務職一級は一般職一級に格付けられたが、従前事務職に配置されていた社員は、その意向を聴取されることなく一般職へ配置された。
被告会社では、昭和四一年制度施行前の昭和四〇年から高卒男子の執務社員の採用を中止していたが、昭和四三年から高卒男子事務職(旧制度の執務社員に相当する。)の採用を再開し、昭和五二年まで採用した。
右事務職で採用された高卒男子は、昭和五八年までにすべて職種転換審査を受けて専門職に転換したが、事務職で採用された高卒女子で専門職に転換した者はいない。
被告会社は昭和五二年採用の高卒男子事務職が専門職に転換した昭和五八年を最後に事務職を対象とした職種転換審査の実施を取りやめた。
(二) 原告乙山は、昭和四一年三月、大阪府立市岡高校を卒業と同時に本社に採用され、事務職に配置されたが、現行制度導入に伴い一般職に移行し、入社一七年目の昭和五八年に一般職二級、入社二三年目の平成三年に一般職一級となり、職務加給は七級B一号である(なお、勤務年数については入社年も一年として算定している。以下も同様である)。
原告甲野は、昭和四四年三月に、府立豊中高校を卒業と同時に本社に採用され、事務職に配置されたが、入社一九年目の昭和六三年に一般職二級、入社二三年目の平成四年に一般職一級となり、職務加給は七級B一号である。
原告甲野と同期入社で同学歴の高卒男子は五名在籍する(以下「比較対象男子」という。)が、同人らはいずれも全く同時期に専門職に転換した後、次のとおりの職分を推移している。
職分
専門職
専門職二級
専門職一級
管理職補
主査
主席
昇進時期
昭和四九年
一月一六日
昭和五五年
一月一六日
昭和六一年
一月一六日
平成元年
一月一七日
平成三年
一月一六日
平成七年
一月一七日
昇進までの
勤務年数
五年目
一一年目
一七年目
二〇年目
二二年目
二六年目
5 婦人少年室長に対する調停申請とその不開始決定
(一) 原告らは、平成六年三月二三日に大阪婦人少年室に対し、住友電工における原告らの職分、職級の運用は、もっぱら原告らが女子であることを理由とした差別的取扱いに基づくものであり、均等法八条及び指針二(3)イ「昇進に当たって、女子であることを理由として、その対象から女子を排除しないこと」に違反するものであると主張し、管理職主査への昇格を求めて均等法一五条に基づく調停申請を行った(以下、「本件調停申請」という。なお、本件調停申請において、原告乙山は、業務に不可欠な日帰り出張を認めないこと等の指針違反も主張し、これに対しても合わせて不開始決定がなされているが、原告乙山は、本訴ではこの点を格別争っていないので本件では取り上げない。)
(二) 原告らの右調停申請に対し、大阪婦人少年室長は、原告ら及び住友電工から個別に事情聴取を行ったうえ、次の二点を理由に、平成六年九月一三日、原告らに対し調停不開始の決定(以下「本件不開始決定」という。)を通知した。
(1) 原告らは一般職であるのに対し、原告らが比較の対象としている男子はすべて専門職であり、採用区分が異なる。採用区分の異なる男女の間で均等法違反を問題にすることはできない。
(2) 女子社員のなかに一般職出身の管理職が全国で一九名存在するが、この数字は一般職出身の男子の管理職の割合と比較しても少なくない数字である。
二 本件の争点
1 被告会社に対する主位的請求
被告会社が、事務職として採用した高卒男女間で異なる処遇をしたことが違法な男女差別に該当するか否か
2 被告会社に対する予備的請求
被告会社には、高卒で採用した男女間に生じた職種、職分等の格差に対する是正義務違反があるか否か
3 被告会社の行為により生じた損害
4 被告国に対する請求
本件不開始決定が違法か否か
5 本件不開始決定により生じた損害
第三 当事者の主張
一 争点1(事務職の男女別処遇が違法な男女差別か)について
(原告ら)
原告らは、被告会社から、女子であるとの理由のみに基づいて、同じ事務職で採用された同学歴の高卒男子との間で昇格、昇進、昇給等において差別を受けた。その結果、大きな賃金格差を生ずるに至ったもので、被告会社の男女差別の処遇は債務不履行であり、不法行為である。
1 被告会社における男女間の処遇の格差
被告会社は、昭和四三年から昭和五二年までの間において、高卒男子を事務職として採用した。しかるに、ほぼ同時期に同じく高卒事務職として採用されながら、昇進、昇格、賃金について男女間で以下の格差が生じている。
(一) 昇進、昇格の格差
(1) 右期間に事務職として採用され、平成八年二月現在在職している高卒男子は三四名である。そのうち、
ア 約七〇パーセントの二四名は勤続五年目に専門職に転換し、遅くとも八年目には三四名全員が専門職に転換した。
イ 約八〇パーセントの二七名は勤続一一年目で専門職二級に昇進し、遅くとも勤続一四年目には全員が専門職二級に昇進した。
ウ 約九四パーセントの三二名は勤続一七年目で専門職一級に昇進し、三三名が、勤続一八年目には専門職一級に昇進した。
エ 三二名は勤続二〇年目で管理職補に昇進し、勤続二一年目には三三名が管理職補に昇進した。
オ 約九三パーセントの三一名は遅くとも勤続二四年目には主査に昇進し、約五四パーセントに当たる一八名が遅くとも勤続二八年目までに主席に昇進した。
以上のとおり、高卒男子は年功序列的に昇進している。
(2) 他方、昭和四一年から昭和五二年までに事務職として採用され、平成八年二月から平成一〇年二月時点で在籍している高卒女子は四六名である、この間、昭和六二年の現行制度導入により、高卒の女子事務職は一律に一般職へと移行させられた。そのうち、
ア 一般職二級に昇進した女子は勤続一四年目にしてようやく二六名に過ぎず、二〇年以上かかった女子もいる。
イ 一般職一級への昇進は、勤続二〇年目にしてようやく二六名であり、勤続二六年目にしても、一般職一級に昇進した女子は四一名であって、なお五名の女子(一〇パーセント相当)は一般職二級以下のままである。
ウ 管理職補には、勤続二四年目から二九年目にかけて一四名が昇進しているが、これは四六名中の三〇パーセントに過ぎない。
エ 主査に昇進した女子は一五パーセントの七名である。
以上によれば、女子の昇進は年功序列的に進んでいるとはいえず、一般職一級への昇進も確定的なものではなく、管理職補、主査のクラスになると、例外的にしか昇進しない。
(二) 賃金格差
昭和四三年から昭和五二年までに事務職で採用された高卒男女間の平均賃金(一時金は含まない。)は別紙10「同期男女事務職の賃金格差一覧表」記載のとおりであり、平成八年ないし平成一一年の各二月の平均賃金に限ってみても最低でも八万〇九三七円(昭和五二年入社男女の平成八年二月の平均比較)、最高では二四万八三一〇円(昭和四四年入社男女の平成一〇年二月の平均比較)という格差が存在する(なお、同別表の男子平均は、特別事情により昇進等が遅れていると考えられる昭和四七年入社の一名を除いたものである。)。
(三) 原告らと比較対象男子との格差
(1) 昇進格差
前記前提事実のとおり、比較対象男子は、同時期に専門職に転換し、その後も同時期に昇進しており、明らかに年功序列の人事運用がなされている。
これに対し、原告らの昇進、昇格は著しく遅れており、原告らは未だ管理職補にも昇進しない。
(2) 賃金格差
ア 原告甲野の賃金、比較対象男子の平均賃金、その間における賃金格差は、別紙11「職分・職級・賃金比較表(原告甲野)」記載のとおりである(右表は、専門職二級昇格時の職級は六級A一号に、専門職一級昇格時の職級は七級B一号に、管理職補昇格時に職級は七級C一号にそれぞれ格づけられるという職級運用の実態に基づき、比較対象男子の職級、賃金を推定して作成したものである。)。
これによれば、原告甲野と比較対象男子の賃金格差は、基準内賃金だけでも、平成一〇年には一か月二三万円もの格差となっている。
イ 原告乙山の賃金、比較対象男子の平均賃金、その間における賃金格差は、別紙12「職分・職級・賃金比較表(原告乙山)」記載のとおりである(右表の作成経過も別紙11と同様である。)。
これによれば、原告乙山と比較対象男子の賃金格差は、基準内賃金だけでも、平成一〇年には一か月二二万円もの格差となっている。
2 被告会社における男女差別
(一) 専門職と事務職ないし一般職の区分による男女別労務管理
(1) 昭和四一年制度
旧制度では、事務系の職務には事務員及び事務補の職種が設けられていたが、この事務補には女子のみが配置されていた。そして昭和四一年制度の導入によって、旧事務員のうち男子は専門職に、女子は事務員も事務補も事務職に配置された。女子で専門職に配置されたのは大卒女子のみである。結局のところ、事務職は女子のみによって構成される職種として位置付けられた。
昭和四三年から昭和五二年までに採用された高卒男子事務職は、昭和五八年までにすべて専門職に転換し、他方、女子は転換の機会を与えられなかった。このため、昭和六二年の現行制度導入時点で事務職が女子のみの職種として位置付けられていることには変わりがなかった。
(2) 現行制度
現行制度における専門職は、昭和四一年制度の専門職がそのまま移行したものであり、他方、新制度における一般職は、昭和四一年制度における事務職、保安職、庶務職、医務職を統合したものに過ぎないから、事務系でみる限り、昭和四一年制度における専門職と事務職による男女別区分は、現行制度における専門職と一般職の男女別区分に置き換えられたに過ぎない。
(3) 以上のような専門職と事務職ないし一般職の実態からして、これらは実質的に男女による区分である。
そして、専門職と事務職ないし一般職とは、ともに同質の事務系の職務に従事する社員であり、任用基準(別紙8及び9)をみても、その職務内容は相互に重なり合うものでありながら、被告会社は、将来の管理職として計画的に育成する男子社員とそうでない女子社員とに二分し、事務職ないし一般職は主として女子を配置する職種として、専門職は主として男子を配置する職種として、男女別労務管理を行ってきたものである。
そして、高卒男子事務職は、専門職転換後、女子事務職ないし一般職とは異なる処遇となるのであって、男子事務職の専門職転換と年功序列的に昇進、昇級したこととが男女間に大きな賃金格差を発生させた。
かかる専門職と事務職ないし一般職との区分は、職種区分としての合理性を有さず、男女差別に該当するものである。
(4) 全社採用、事業所採用の区分の不合理性
ア 被告会社は、高卒事務職の男女間での処遇の格差について、全社採用か事業所採用かという「採用区分」に基づくものであるとし、この採用区分は個別の労働契約によるものであると主張する。
しかし、もしこのように採用区分が個別の労働契約に基づくというのであれば、その契約締結の際に、採用区分の存在、採用区分の違いによってその後の処遇に重大な違いがあること等につき契約当事者が当然認識してしかるべきであるが、採用時にこのような採用区分についての説明は一切なされていない。求人票に示された採用後の作業内容欄の記載を見ても、男子の求人票には「工程管理業務」「倉庫輸送業務」が付け加わっているだけでその他は違いがない。それゆえ、高卒女子が採用段階から個別の労働契約において定型的補助的業務を行うとの認識を有していなかったことは明らかであり、原告らも、全社採用、事業所採用という区別は本件訴訟になるまで知らされていなかった。
事業所採用である作業職についても、男子は専門職への転換を果たしているのに対し、女子では専門職へ転換した者は存在しない。
また、同じ作業職で中途採用者の初任給テーブルに男女で格差が存在したことや、作業職、事務職、専門職のいずれも男女で初任時の職級の特例が異なっていることなど、被告会社の労働条件は明らかに男女別のものが存在する。
しかしながら、全社採用、事業所採用別で労働条件の違いを示した資料は存在しない。
以上からしても、被告会社に存在するのは、全社採用、事業所採用という採用区分による労務管理ではなく、男女別の労務管理である。
イ 原告らが被告会社に採用された昭和四〇年当時にあっても、合理的な理由なく採用において男女を差別することが違法であることは当然である。
募集、採用における不合理な差別は、雇用関係成立の出発点において労働者を排除するものであり、差別のもたらす効果は、雇用関係成立後の差別以上に労働者にとって打撃的なものである。募集、採用における企業の自由にも一定の限界があり、採用時から男女を区別する男女別コース制の採用区分には合理的理由がない。憲法一四条に違反するものであるし、労働が、社会参加や自己の能力を開発していく場であることなどからすると女子であるという理由により採用時から差別されることは、女子労働者の幸福追求権(憲法一三条)をも侵害するものであって、民法九〇条の公序良俗違反である。
雇用における男女平等はようやくその実現が図られつつあるなどという現状を公序良俗違反を判断する際の否定要素とすることは、「現状」によって公序良俗が左右されることを認めるのと同じである。公序良俗の基準は、憲法の中に求められるべきで、憲法に違反しても公序良俗違反ではないとする理論は、憲法の公序性を否定するものである。
また、均等法において、募集、採用に関する男女平等取扱いが努力義務にとどめられたことも、採用において男女差別を行うことが公序良俗違反であることを否定する理由とはなりえない。
ウ 被告会社は、高卒女子を全社採用の募集対象にしなかった理由について、昭和四〇年代当時、高卒女子については勤務地限定の採用が一般的であり、勤務地の移動は考えられなかったなどと主張する。
しかし、被告会社は、原告らを含む高卒女子の採用時、生涯定型的補助的業務をやらせるという説明はしていないし、個別に早期に結婚したいとの意向を聞いたわけでもないのであるから、被告会社が、女子を全社採用の募集対象にしなかったのは、当時の高卒女子の就労意識を、結婚までの短期間のものと考える性別役割分業観によるものであったことは明らかである。
しかるに、以下の理由から性別役割分業観によって被告会社の男女別採用を合理化することはできないというべきである。すなわち、
① 当時においても女子の就労意識は多様であり、すべての女子が結婚までの短期雇用を前提として就労しているのではなかった。現に、被告会社にも長期勤続の女子は少なからず存在していた。
② 職場における実際の仕事内容は、定型的補助的業務とそうでない業務に整然と二分できるものではない。専門職と一般職の職種分類基準や任用基準をみても重なり合う部分が多く、高卒女子でも意欲と能力次第では専門職的業務をこなすことは十分可能であった。
③ 性別役割分業観と労務管理の結びつきは、戦後の大企業で採用された年功序列の賃金体系と表裏をなすものであり、性による自然発生的なものではない。性別役割分業観は、家族を養う男子を基準とした年功型生活保障型賃金体系の構築によって、企業により、女子の賃金を低く抑えるために利用されたに過ぎず、仮に女子労働者に性別役割分担意識が存在していたとしても、その原因が専ら女子労働者にのみ存在するとはいえない。
被告会社自身も、男子のための年功序列型賃金体系のもとで、女子を結婚までの低賃金の短期労働者とするため、性別役割分業意識を利用し、さらには男女別労務管理を推進し強化してきたものである。
エ 被告会社は、高卒女子を全社採用の対象としなかった理由の一つに「労働時間に対する法的制約」をあげているが、労働基準法上の女子労働者の保護規定の限度では労務の不提供すなわち、使用者側からみれば非能率が許されているのであるから、法的制約を理由に男女差別処遇を合理することは許されない。
オ 被告会社が、女子社員における制約としてあげる転勤の可能性についても、専門職に転換した高卒男子事務職すべてが転勤を経験しているものではないし、女子についても、課或いは部の異動に伴い事業所を異動した例があるのであるから、転勤についての制約を女子固有の特質として、男女別労務管理の根拠とすることは不合理である。
(二) 被告会社における男女差別の仕組
(1) 採用後の研修、教育について
被告会社では、専門職と事務職ないし一般職とでは、採用後の研修内容を異にしており、専門職には工場研修なども含む長期の研修が予定されるのに対し、女子事務職は接客研修が主である。
被告会社は、昭和四三年から昭和五二年にかけて、原告らと同学歴の高卒男子を事務職に配置していたが、高卒男子事務職には専門職研修に近い研修が実施されてきた。
また、専門職には上長による本人の自己啓発の促進と個別指導の強化を目的とする目標管理制度が設けられ、専門職二級、専門職一級へ昇進する各段階においてその適用を受け、日常の業務を通じて計画的に上長による個別指導が行われるが、一般職には、平成八年になって目標管理制度が適用されることになったものの、その回数は一回だけであり、上長による計画的な個別指導も行われず、能力開発のチャンスが著しく制約されている。
(2) 配置差別
事務職ないし一般職は、一部署に長期間固定され、昇格につながるような計画的な配置転換を行われない。また男子を主担当、女子を補助とする職務分担により明らかな男女差別の配置を続けている。
(3) 昇給差別
被告会社では、本俸について毎年昇給がおこなわれるが、昇給についての明確な基準がないため、会社の恣意的な運用を許すものとなっている。その結果、女子は男子に比べて、著しく昇給が抑えられ、本俸における男女格差を生み出している。
本俸における昇給の最低額も一般職は一五〇〇円、専門職は二千数百円といった違いがある。
なお、昭和四一年制度のもとで、高卒事務職においては、初任給において男女間格差はなかったものの、被告会社は、毎年の定期昇給に際して定める昇給額の幅においても男女間では異なる取扱いをしており、男子事務職が専門職に転換する以前から本俸等に男女間格差が生じていた。そして、男子が専門職に転換した後は、それまで以上に大きな格差が生じたものである。
(4) 職分昇格差別
専門職の職分昇任は、その基準が明らかにされていないものの、数年ごとに昇任が行われ、ほぼ年功序列で昇格していくのに対し、事務職ないし一般職の女子は、勤続一〇年から二〇年近くも同じ職分にとどめ置かれ、年功に応じた昇任は行われていない。
(5) 職級の昇級における男女差別
事務職ないし一般職女子は、右のとおり職分昇任が抑えられていることが、ひいては職級や職級内区分の昇級を押える結果となっている。また、同じ級であっても(例えば専門職一級と一般職一級)、一般職には専門職に比べて低い職級が適用されていることが、一般職の昇級を抑える結果になっている。
(6) 転換における男女差別
原告らが、採用された当時、高卒社員は男女とも事務職に配置されたが、男子は、昭和五八年までにすべて専門職に転換した。
被告会社は、専門職への転換には職種転換審査に合格する必要があると主張するが、右のとおり高卒男子事務職全員が専門職への転換を果たしていることや比較対象男子が全員そろって昭和四九年一月一六日でもって専門職に転換したことからすると、職種転換審査といっても形式だけで、専門職転換の実質的な障害ではない。
これに対し、高卒女子で専門職に転換した者はいない。職種転換審査は、公募ではなく上司の働きかけで機会が与えられるものであり、女子には全く機会が与えられなかった。しかも、被告会社は、現行制度導入により職種転換制度を廃止してしまった。
この専門職への転換の存否が、男女間の賃金格差を発生させる大きな原因である。
(7) 管理職登用における男女差別
現行制度では、一般職にも管理職補の職分が設けられ、その任用基準も専門職の管理職補と同一のものとされたが、専門職には、管理職補になるまでの職分の段階において、管理職補の任用基準に含まれる「調査・研究・開発・企画・設計・指導・調整・監査及び対内外折衝」に従事することが任用基準とされ、そのような業務を計画的に配置されるのに対し、一般職の管理職補になるまでの任用基準は、主としては「計算・記帳・統計・コンピューター等の事務的業務等」に従事することとされ、従って一般職は、管理職補に必要とされる能力を開発する機会において、職分制度上も専門職に比して著しく不利な立場に置かれている。
一般職の女子が管理職補に任用されても、専門職男子の管理職補に適用される職級が適用されるものではなく、一般職女子の管理職補の職級は専門職の男子の職級に比べて低い職級にとどめられている。
このような職分制度や賃金制度そのものにおける一般職の不利益性や前記のような転換における男女差別、教育における男女差別は、ひいては管理職登用における男女差別となってあらわれている。
平成六年一月現在、男子は一万二八〇〇名の社員のうち約二四〇〇名(一九パーセント)が管理職であるが、女子の管理職は女子社員二一五〇名のうち一九人(0.8パーセント)に過ぎず、しかもこれら女子の管理職は一般職のままで管理職になった者であり、専門職に転換して管理職になった者は一名もいない。
一般職からは幹部(役員、部長)クラスになることはありえない。
3 原告らが受けた男女差別
(一) 原告甲野
(1) 研修差別
原告甲野が本件訴え提起までに受けた研修は、採用後の接客研修とコンピーユーター端末機使用説明講習会のみである。
(2) 配置差別
原告甲野は、入社以来今日まで、売掛金の回収業務に従事し、配置転換を受けていない。原告甲野の要求で、平成四年ころから、それまで男子専門職が担当していた債権回収遅延のとりまとめ等を行うようになったが、その後は、大阪婦人少年室の指導がなされたにもかかわらず、昇格につながるような仕事の配置は未だに実施されていない。
(3) 昇給、昇格、昇級差別
原告甲野と比較対象男子との本俸や格付の格差は、別紙11「職分・職級・賃金比較表(原告甲野)」記載のとおりであり、昇級も専門職である比較対象男子に比べて著しく遅い。
(4) 職種転換差別
比較対象男子は、現行制度導入までに全て専門職に転換し、その後平成三年一月には管理職主査に昇格している。さらに原告甲野より二年後に入社した、同学歴男子も、専門職に転換後、平成五年一月に管理職主査に昇格している。しかるに、原告甲野は転換の機会を全く与えられず、現在も一般職一級にとどまっている。
(5) 会議出席の差別
システム改善等に関する会議で、女子が出席する必要があると思われる会議でも女子を排除して開催され、原告甲野が女子事務研究会のリーダーの立場にあっても出席の機会を認められていない。
(二) 原告乙山
(1) 研修差別
原告乙山が婦人少年室への調停申請までに受講したのは、採用後の接客研修のみであり、右申請後、SE(システムエンジニア)研修会の受講を申し出て、その受講がやっと実現した。
(2) 配置差別
原告乙山は、昭和五〇年に情報システム部へ配置されて以来、今日まで情報処理業務に従事しており、長期間同じ業務に配置されたままである。しかもその情報処理業務においても、当初はプログラマー専門で、後にシステム設計にもたずさわるようになったが、単体のシステム設計にとどまり、企画、立案をともなう大型プロジェクトのシステム設計には未だに従事させられていない。そして現在は、パソコン単体による課内業務についての小規模システムの作成業務が主である。
右調停申請後、同室の指導もあって、直属の部、課長より、現在の仕事の状況と今後やりたい仕事を文書で提出するように指示があり、原告乙山は、ワークステーション関係のシステム及びシステム設計を含んだ新システムのソフト開発の業務に従事したい旨希望を出したが、その後被告会社からは何の対応もない。
(3) 昇給、昇格、昇級差別
原告乙山と比較対象男子との本俸や格付の格差は、別紙12「職分・職級・賃金比較表(原告乙山)」記載のとおりであり、昇級も専門職である比較対象男子に比べて著しく遅い。
(4) 職種転換差別
原告甲野と同様、一般職にとどめ置かれ、職種転換の機会を与えられていない。
(5) 出張差別
原告乙山は、昭和五六年から平成四年まで、業務上必要な日帰り出張が全くできず、平成五年一一月から平成六年には男子同伴でないと日帰り出張を認めないとの不当な扱いを受けた。原告乙山の業務において日帰り出張は、プログラムのユーザーと直接面談して、そのニーズをつかみ、ひいては原告乙山にとってその能力を開発することにつながるものであるが、このような日帰り出張を制限する上司の指示は、原告乙山の能力開発の機会を抑え込む目的で行われたとしか考えられない。
4 被告会社に対する請求の法的根拠
(一) 憲法一四条第一項は、男女の差別を禁止し、労働基準法第四条も賃金について男女の差別的取扱いを禁止しているのみならず、「国際人権規約」、「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃条約」(以下「女子差別撤廃条約」という。)等でも、男女同一の「労働の権利」や「同一の雇用機会についての権利」等を定めており、この「女子差別撤廃条約」の批准にともなって雇用機会均等法が制定され、昭和六一年から施行された。また、この間の昭和四〇年代には女子の結婚退職制、若年定年制等について、合理的な理由のない差別であるとして公序良俗違反とする裁判例が相次ぎ、男女平等取扱いの法理は、労働関係全般における公序として確立している。
(二) しかるに、被告会社は長年にわたって男女差別に当たる人事管理を行い、採用、教育研修、配置、昇進、昇格、昇級、昇給、職種転換、会議出席、出張の場面で、原告らの平等を求める権利を侵害したものであって、その結果、原告らは後述のとおり、差額賃金相当額の損害を被り、また、多大な精神的苦痛を受けた。
かかる被告会社の措置は、労働契約に含まれる男女間の平等取扱い義務に違反する債務不履行であるとともに、憲法一四条に違反し、かつ、労働が、社会参加や自己実現の場であることなどからすると女子労働者の人格権、幸福追求権(憲法一三条)をも侵害するものであって、民法九〇条の公序良俗に反する不法行為でもある。
(被告会社)
1 高卒事務職男女間の格差について
(一) 被告会社の賃金制度
被告会社が原告らを女子であることを唯一の理由として男子と差別している事実はない。原告ら主張の格差は被告会社における人事制度、賃金制度のもとで、適正に処遇された結果である。
原告らは、男子について年功序列の人事運用がなされていると主張するが、被告会社では、定期昇給、期末賞与の賞与部分の加算、職務加給の格付見直し、職分昇任はいずれも人事考課に基づいて行っており、年功序列による運用は行っていない。賃金は、専ら勤務成績等に応じて決定しているため、勤務成績良好者は毎年より高い本俸や職務加給を得る結果、たとえ同期入社で、同一職種に採用され、初任本俸が同一であった者でも、勤務成績に違いがあれば勤続年数を経ることにより、その差は歴然たるものとなってくる。
(二) 全社採用と事業所採用について
被告会社では、本社で人員計画を策定して一括して管理する全社採用と、各地の事業所で独自に採用する事業所採用の二つの採用方法をとっており、また採用後の職種の違いに応じ、それぞれの職種ごとに採用方法、採用条件を決めて募集している。
原告らが入社した昭和四一年制度のもとでも 社員の募集、採用は各職種別に行っており、各職種ごとに採用方法(全社採用か事業所採用か等)、採用人員、採用時期(新卒採用か中途採用か等)、応募資格(大学卒以上か高校卒以上か等)等を定めていた。作業職、保安職、庶務職及び医務職はすべて勤務地限定の事業所採用であったし、専門職は、将来の経営幹部要員として採用後全国的に展開して勤務することとなるため全社採用であった。
ただ、事務職に関してだけは、同一職種の中で事業所採用と全社採用という異なる採用方法が並存していた。その理由は、全国的な規模で商業高校や工業高校出身の少数の優秀な高卒男子を、大卒出身者と同様、将来の経営幹部要員として、全国展開を予定して採用する関係上、一般事務を担当する者として勤務地を限定して採用する女子事務職とは別に、全社採用の事務職として採用し、その後職種転換試験を経て専門職へ転換させるという方法をとってきたからである。
全社採用者と事業所採用者という二種の事務職社員は、既に採用の条件から明らかに異なっており、全く性格を異にするものであった。
原告らが入社した昭和四〇年代ころの全社採用と事業所採用との採用方法における主な差異は次のとおりである。
(1) 募集内容
ア 採用担当部門
全社採用の専門職や男子事務職は本社人事部が、事業所採用の作業職(技術職)や女子事務職は各事業所の人事担当課がそれぞれ主管していた。事業所としての本社の女子事務職の採用については同じ本社人事部が主管していたが、採用責任者は人事部長ではなく、部長補佐であった。
イ 募集対象者
全社採用の専門職は全国の著名大学卒業見込みの男子を、全社採用の事務職は全国の著名商業高校や工業高校(昭和四二年以降は国立工業高等専門学校)卒業見込みの男子を対象に求人募集を行っていた。
事業所採用の作業職(技術職)や女子事務職は、製作所等各事業所所在地域の被告会社指定の学校に求人募集しており、作業職(技術職)は概ね中学、高校卒業見込みの男子が、女子事務職は概ね短大及び高校卒業見込みの女子が対象であった。
ウ 選考方法等
全社採用の専門職や男子事務職は、専ら学力に重点が置かれており、高卒男子の事務職は、学科試験(国語、数学、英語、専門科目)、適性検査及び人事担当役員の面接等により採否を決定していたが、事業所採用の女子事務職は、学科試験(国語、数学)及び人事課長の面接により採否を決定しており(もっとも、原告乙山のように縁故採用で、面接のみということもあった。)、選考方法そのものにも差異が設けられていた。
全社採用の男子事務職は、将来の専門職として高度の専門知識を吸収していく能力を問うことに主眼が置かれており、事業所採用の女子事務職は、事務遂行のための基礎学力を問うことに主眼が置かれていたためである。
選考日時や試験会場等も別々に設定されていた。
エ 勤務地
全社採用の専門職や男子事務職は、国内外の全事業所で勤務することを予定して募集を行っていたが、事業所採用の作業職(技術職)や女子事務職は当該製作所を勤務地と限定していた。
(2) 入社日時、入社式
全社採用者は本社において、社長以下の出席の下に入社式が行われるのに対し、事業所採用の女子事務職や作業職(技術職)は、各製作所において製作所長の出席の下に入社式が行われた。
事業所としての本社で採用された女子事務職も入社式は本社で行われていたが、全社採用の専門職や男子事務職の入社式の日時等とは別に設定されており、両者合同で行われることはなかった。
(3) 入社時の導入教育等
入社時の導入教育についても、全社採用の専門職や男子事務職は、本社人事部主催の下に将来の幹部候補要員として現場実習を含めた長期の実習を経るのに対し、事業所採用の女子事務職は各製作所等事業所限りで短期の接遇教育等で終わっている。
以上のとおり、全社採用の男子事務職と事業所採用の女子事務職とではその将来に対する期待と位置付けの違いにより、採用の初めから異なる処遇を受けてきたのであって、同列には論じえないものである。
(三) 比較対象男子との比較の不当性
比較対象男子は、大卒の専門職同様全社採用であり、将来の経営幹部候補要員としていずれ専門職に転換することを予定して採用した者である。
原告らは事業所採用の事務職の募集に応募して入社し、その後事務職として処遇されてきたのであるから、そこに何らの異議もないはずである。
原告らはそもそも全社採用者の募集条件には該当せず、およそ選考対象外であり、まして原告乙山などは筆記試験も受けることなく縁故採用で入社しているのであって、高卒の男子専門職と同一の処遇を求めうる立場にはない。
原告らがあくまで同期、同学歴にこだわるのであれば、むしろ事業所採用の同期、同学歴の男子技術職社員を比較の対象とすべきであって、昭和四〇年から五二年にかけて採用した高卒事務職及び作業職の平成九年一〇月現在における在籍状況は別紙13「高校卒事務職(女子)、作業職(男子)の新卒採用数及び在籍数」記載のとおりであるが、その対比をみれば、高卒事務職の女子が男子技術職に比べて決して低い処遇を受けていないことが明らかである。
(四) コース別人事管理と採用差別について
なお、原告らは同じ事務職でありながら、女子は全て事業所採用というような採用方法を設けること自体が女子差別であると主張している。しかしながら、採用後の人材の活用目的に合わせて、採用条件や採用方法を変えること自体、それが不合理なものでない限り、いわゆるコース別人事管理として何ら問題はないのであって、被告の採用方法は極めて合理的であり、まさに経営権の自由に属するところである。
昭和四〇年代当時、高校卒業見込みの女子については、勤務地限定での採用が一般的であった。その理由としては、当時は一般的に女子は一旦就職しても結婚して家庭に入るという観念が根強く、全般的に勤続期間が短く、そのため終身雇用制度を前提とする企業にとって、幹部候補要員として要求されるキャリアの蓄積がおよそ期待できないこと(現に、前記別紙13記載のとおり、高卒女子事務職の大半は入社後数年にして退職している。)、また全社採用の幹部候補社員ともなれば、残業、休日勤務等も多くなるところ、当時は女子の労働時間に対する法的な制約も多く、多忙なポストへの配置が困難であったこと、女子を住居の移動を伴う転勤をさせること自体ほとんど考えられず、仮に高校卒業見込みの女子に転勤のある職種の募集をしたとしても、ほとんど応募が期待できないといった状況であったこと等があげられる。勿論、このような事情は、ひとり被告会社に限らず大多数の企業に共通の認識であった。
高卒女子に、全社採用の門戸を開放したとしても、当時の社会情勢では全社採用に応募する女子はなかったであろうし、まして、簿記などの知識等もない原告らがこの難関を通る可能性は皆無だった。
2 差別の不存在
原告らの主張は、要するに被告会社においては組織ぐるみで男女差別が行われており、原告らは女子であることを唯一の理由として、昇給、昇格等において不当に男子と差別されているというものである。
しかしながら、原告らは、原告ら以外の女子がいかなる差別を受けているというのか具体的な主張をしていない。
平成八年八月現在における大卒の専門職の職分分布は別紙14「大卒専門職年齢・職分人員表」記載とおりであるが、これをみても明らかなとおり、昇格において男女間に差はない。また、前記別紙13記載のとおり、原告らより後に入社した同学歴の女子一般職で、既に管理職に登用されている者も存するのである。
もし、原告ら二人だけが差別を受けているというのであれば、それはもはや組織ぐるみでの男女差別という問題ではなく、原告らの属人的な要因によるものであることを意味するものである。
従って、男女差別を受けているという原告らの主張は、失当である。
3 職種転換審査を受けさせなかったという主張について
原告らは、被告会社が高卒女子事務職について、職種転換審査を受験させず、専門職転換の機会を与えなかったのは違法な差別であると主張している。
この専門職への転換制度は、被告の業務上の必要性によって、職種、職分を転換をさせることがあるというにとどまり、全ての社員に転換審査を受けさせることを規定しているわけではない。
幹部候補要員として採用した全社採用の高卒男子事務職については、当初から専門職に転換させることが予定されていたのである。これに対し、もともと原告らはそのような幹部候補要員とするために採用されたものではなく、採用後の業務遂行過程においても、専門職に職種転換させるべき業務上の必要性は存在しなかったのである。
原告らに職種転換の機会を与えなかったのは、採用区分の相違に由来する人事処遇上の当然の処置であり、男女差別というものではない。
4 原告らの主張するその他の差別について
(一) 教育、研修について
原告らが、自らに受講資格があるいかなる研修等を受講させるべきであったというのか不明である。
原告らが、同じ事務職や一般職の中で女子であるがゆえに排除されたというなら格別、専門職と同様の教育、研修を受けさせるべきであったというのであれば、被告では職種ごとに教育研修も異なるメニューで実施しており、技術職であれ、一般職であれ、専門職であれ、それぞれその職種に独自の教育を行ってきているのであるから、異なる職種である以上、原告らに専門職と同じ研修、教育を受けさせなければならない必然性はない。
(二) 配置について
いかなる労働者をいかなる業務に従事させるかは、雇用契約に反しない限り、本来、企業の専権に属するものであって、雇用契約上の義務として企業に配置転換を行うべき義務などあるわけはない。原告らは、勤務地限定の事業所採用であり、同年入社の全社採用の高卒男子事務職や大卒、高専卒の専門職とは、採用区分や労務管理の態様が異なるものであるから、これらと同一に配置転換せよという主張自体不合理というべきである。
結局、配置差別があるという原告らの主張は、日常の業務付与に対する不満に過ぎず、男女差別という問題ではない。
(三) 原告乙山の出張問題
誰を出張させるかは、日常の業務遂行に責任を持つ上司が判断して行うものであり、そこには広範な裁量権がある。現に原告甲野は、出張した経験を有しているのである。原告乙山が単独出張することに何らかの経済的メリットがあり、それを殊更に妨害したというのなら格別、単に単独出張したいという個人的な希望がかなえられないというのは、単なる日常の業務指示に対する不満にとどまり、およそ男女差別という問題とは無関係である。
(四) 原告甲野の会議への出席について
誰を会議に出席させるかも、日常の円滑な業務遂行に責任を負う上司が判断することであり、そこには広範な裁量権がある。会議の出席如何によって直接の不利益が生じるものではない。原告甲野の主張は単なる日常の業務付与に対する不満に過ぎず、男女差別という問題ではない。
5 平等取扱い義務違反の債務不履行の主張について
原告らは、請求原因の一つに労働契約の債務不履行をあげ、平等取扱い義務違反であると主張している。
しかしながら、労働者は、労働契約上、いかなる場合に平等取扱い請求権を有するというのか、いかなる場合にそれは企業の人事権に優先するというのか等原告らのいう平等取扱い義務の内容は不明である。
そもそも企業の人事権には広範な裁量権が認められているのであるから、平等、不平等それ自体明確にできるわけはないし、資質、能力、貢献度等に基づく選抜方式による昇格、昇進という人事制度をとる以上、およそ、原告らのいう平等取扱いということなど殆ど想定できないことである。
企業の人事権行使が公平、平等であるべきであるという理念は当然であるとしても、人事権行使に企業の裁量権が認められている以上、個々具体的事案において、労働契約上の平等取扱い請求権(義務)という概念が成立する余地はなく、平等取扱い請求権の存在を前提とする債務不履行の主張は、主張自体失当というべきである。
6 不法行為の主張について
(一) 不法行為の主張についても、原告らは、教育研修、配置、本俸の昇給、職分の昇任、職級の昇級、配転の各場面において男子と差別されて処遇されたと主張するのみで、被告がいついかなる作為、不作為によって原告らのいかなる権利を侵害したというのか何ら具体的な主張がない。
(二) 被告においては、前記のとおり、昇給、賞与、職務加給の格付見直し、職分昇任それぞれについて、まさに人事権の行使として、一定のルールに基づく人事考課の結果によって実施している。
原告らは、男女差別の結果、同期、同学歴男子との間に格差が生じたとして、被告の人事権の行使が違法であったと主張するが、事業所採用の原告らと全社採用でその後専門職に転換した者とでは、職種そのものが異なっており、それに対応して本俸の昇給額も職種毎に異なっているのであるから、かれこれ比較すること自体が無意味である。
(三) 原告らは、自らが置かれた事務職ないし一般職と専門職との処遇の違いが違法な男女差別であるとも主張する。
しかしながら、専門職と事務職ないし一般職との区分は、いわゆるコース別人事管理として広く行われていることであり、何ら違法といわれるものではない。全社採用の専門職と事業所採用の事務職とでは、採用の初めより、その要求される学歴や試験内容も異なり、入社後の研修、配置、従事する職務等も違い、住居の移転を伴う転勤が予定されるか否かなど極めて明白に異なるのであるから、異なる取扱いがなされたとて至極当然のことである。
原告らは専門職と事務職とでは職務内容に一部重なり合う部分があると主張するが、たとえ一時的に同様の業務に従事する時期があったとしても、職種全体として異なる職務に従事するものである以上、そのことゆえに専門職と事務職が同質の業務に従事していることになるわけではない。
二 争点2(被告会社の是正義務違反)について
(原告ら)
仮に、原告らの採用段階において、当時の社会情勢に鑑み、その男女別採用が違法ではないとしても、その後の社会情勢の変化により、被告会社にはかかる男女別採用に基づいた男女別労務管理を是正、解消すべき義務が生じていた。
にもかかわらず、被告会社が右義務に違反して男女別労務管理を継続して採用し、格差を増大するにまかせたことは、違法であり、債務不履行及び不法行為に該当し損害賠償義務を生じさせるものである。
1 是正義務の法的根拠
使用者の行為が、従前は違法な差別といえなかったものであっても、その後の時代と法の変化によって、それが違法とされるに至った場合には、使用者はその差別を是正する義務を負うと解すべきである。そうでなければ、使用者の差別が最近始まったのであれば許されないのに、長期間に亘って継続しているほど、その差別が当時は違法でなかったことを理由に免罪されることになり、信義則に反し不当極まりない結果になるからである。
また、女子差別撤廃条約も、撤廃のための適当な措置をとるべき義務を負う「女子に対する差別」には、男女が人権を平等に享有し行使することを妨げるような効果を有するものを含ませており(同条約一条)、過去の差別が現在も存続している場合に、それを是正せずに放置することは、男女が人権を平等に享有し行使することを妨げる効果を有するものであり、それ自体が女子差別である。
従って、締約国の義務として、裁判所は、私人間においても、右条約の効力を及ぼし、企業に是正義務を課すべきである。
2 被告の男女別労務政策の継続
被告会社は、昭和三〇年代当時から、旧制度のもとで高卒執務社員を採用するについて、男子は将来の中堅幹部要員として、女子は定型的補助的業務を行うための要員として採用してきた。昭和四一年制度の導入に当たっても、高卒男子執務社員を全員専門職へ移行させながら、高卒女子執務社員全員を、職種転換についての意向を聴取することなく事務職に移行させた。さらに昭和六二年の現行制度の導入に当たっても、高卒女子事務職は何らの意向を聴取されることなく一般職に移行させられた。
この間、被告会社は昭和四〇年から中止していた高卒男子事務職の採用を昭和四三年に再開するに当たり、高卒女子の活用を考慮することもなかった。
旧制度では、女子執務社員が管理職に昇進する制度があったが、四一年制度では事務職のまま管理職になることは予定されず、専門職へ転換するための職種転換審査を受ける機会を全く与えられなかった。
現行制度では、職種転換審査すら廃止された。
従来専門職にのみ設けられていた管理職補という職分が、一般職、技術職などにも設けられたとはいうものの、専門職と一般職とは、仕事の配置、教育、研修、昇給等が異なり、専門職は幹部候補社員と位置付けられるのに対し、一般職はそうでないなどの明らかな差異は残ったままであり、しかも、管理職補に昇進するには昇進審査を受ける必要があるが、かかる昇進審査については、本人の意思で受験できるものではなく、文書上の根拠もないため、社員にとっていかなる条件のもとに受験が認められるのかは不明であり、職種転換審査を廃止したことを合理化できるものではない。
以上のとおり、被告会社は、一貫して高卒女子を、安価な労働力として一般職(旧事務職)に固定する労務管理政策をとり続け、専門職に比して不利益に扱い続けてきた。
3 第一次的予備的請求
(一) 是正義務の発生時期
被告会社は従前、男子五五歳、女子五〇歳の男女別定年制をとっていたが、昭和五四年に廃止している。
被告会社が、右男女別定年制を廃止したのは、昭和四四年以降、男女別労務管理を問題として男女別定年制を無効と判断する裁判例が相次いだことによるものである。かかる一連の裁判例において、女子が補助的業務しか担当していないとすれば、それは企業の労務管理自体によってもたらされたものであり、男女別労務管理を合理化する理由にならないということが指摘され、男女別労務管理に対する社会的、法的評価が明らかにされたのである。
被告会社が男女別定年制を廃止した際には、当然かかる裁判例の指摘を認識し、検討したはずであり、第一次的には右廃止時点において、後述のような是正義務が生じたものである。
(二) 是正義務の内容とその不履行
採用段階から教育、訓練、配置、昇進等に格差がある場合、是正義務発生時点で、それまでの職務経験等において差異がある男女社員間の格差是正について、直ちに職種を同等にするなどの措置を行うことは現実的でない可能性がある。
したがって、被告会社は、是正義務が生じた昭和五四年以降、原告ら高卒女子事務職に対し、専門職への転換を希望するかどうかを聴取し、転換を希望する者には、高卒男子事務職と同様の教育、訓練、配置を行ったうえで職種転換審査を適用すべきであった。その際、原告らは、被告会社の男女別労務管理によって職種転換審査の受審を長年にわたって認められてこなかったのであって、このような時期に英語、数学等の学科試験を合格の要件とされることの不利益性は大きく、他方、勤続一一年ないし一四年目で受験することになるのであるから、十分な職務遂行能力を有しているはずである。したがって、原告らにこの職種転換審査を適用するに当たっては、その試験内容は職務と関連性の乏しい学科試験とするのではなく、より職務に関連したものに改定するなどして実施すべきであった。
しかるに、被告会社は、何らかかる是正措置を果たすことなく、昭和四一年制度のもとで原告らを事務職に固定し続けた。
4 第二次的予備的請求
(一) 是正義務発生時期
昭和六一年四月から施行された均等法は、その募集、採用、配置、昇進の段階における企業の平等取扱い義務を努力義務として規定した。これによって、男女別採用、男女別教育、男女別配置のいずれもが、均等法違反となり、企業はこの男女別労務管理を是正する努力義務を負うことが法律によって明確にされた。事業主は、均等法施行に当たって、職場において女子が男子と均等な扱いを受けていない現状を点検し、女子労働者の地位向上のために一定の措置をとるべき法的義務を負ったのである。
したがって、均等法が施行された昭和六一年において、被告会社は、昭和四一年制度のもとで実践していた男女別労務管理を見直し、適切なものに是正すべき法的義務を負っていたのである。
(二) 是正義務の内容とその不履行
是正義務の内容は、第一次的予備的請求にかかる是正義務と同様である。
さらに、被告の人事制度は、職種によって、その人事上の処遇を異にするとしている点では、コースによって人事上の処遇を異にするコース別雇用管理制度と同じである。これに関して、労働省は、平成三年一〇月八日に「コース別雇用管理の望ましいあり方」(以下「望ましいあり方」という。甲三九)を発表し、コース別雇用管理の望ましいあり方の具体策を示したが、その中で「制度導入時の振り分け基準」として「性別を基準とせず、個々人の意欲、能力によるものとすること」や「コース間の転換を認める制度を柔軟に設定すること」などを要求している。
したがって、被告会社は、均等法施行に引き続いて昭和六二年制度導入というそれまでの男女別労務管理を抜本的に見直す絶好の機会を持ったのであるから、この時点で、女子社員の能力を再評価し、意思を確認した上で振分けを行うことが必要であった。
すなわち、被告会社は、昭和六二年制度導入に当たって、事務職の女子に専門職選択の意向があるかどうかを聴取し、専門職への選択を希望する者には、専門職に準ずる教育を実施し、職務の配置を行ったうえで、専門職としての職務遂行能力があると判断した者を、職種転換審査を実施することにより専門職に転換させる措置をとるべきであった。
しかるに、被告会社は、この際にも、このような措置を一切とらなかった。
(被告会社)
1 第一次的予備的請求について
被告会社は、職種及び職分制度に基づき、社員をその所属する職種に応じて処遇するコース別人事管理を行ってきた。原告らと同期、同学歴の専門職社員とは、採用の初めより異なる職種を歩んできたのであって、そこに生じた格差は異なる職種であることの帰結である。
したがって、被告会社にとっておよそ是正すべき何ものもない。
のみならず、昭和五四年の時点では、未だ男女別労務管理を違法とする国民意識は定着していなかった。
2 第二次的予備的請求について
昭和六二年の職種及び職分制度改定の際も、適正なコース別人事管理を行ってきた被告会社としては、是正すべきものは何もなかった。
原告らは昭和六一年の均等法施行によって是正義務が生じたと主張するが、同法においても配置及び昇進については努力義務とされており、これは「法律の制定、改廃を行う場合には、その内容は将来を見通しつつも現状から遊離したものであってはならず、女子労働者の就業実態、職業意識、我が国の雇用慣行、労働時間をはじめとした労働条件等労働環境、女子が家事、育児等のいわゆる家庭責任を負っている状況、女子の就業と家庭生活との両立を可能にするための条件整備の現状、女子の就業に関する社会的意識等の我が国の社会、経済の現状を十分踏まえたものとすることが必要である」との基本的な考え方によるものである。したがって、この時点では未だ均等法に違反する取扱いが直ちに違法であるとする社会的な認識にはなっていなかったのであり、およそ是正義務が生ずる余地はないのである。
被告会社では、均等法制定後は広く女子労働者に門戸を開放し、大卒の専門職にも女子を採用し、全国の事業所に展開している。
また、現行制度の導入により、一般職や技術職からも管理職へ進む途を明確化しており、現に、累計では二七名、平成一〇年四月一日の現在数では一六名の高卒女子一般職が管理職補を経て管理職となっているのであって、その中には、原告らより入社年度の新しい者も含まれている。
原告らが、一般職一級にとどまっているのは専ら原告ら自身の勤務成績によるものである。
三 争点3(被告会社の行為により生じた損害)について
(原告ら)
1 主位的請求
(一) 差額賃金相当損害金
被告会社の男女別採用に始まる男女別労務管理によって、原告らは前記のとおり、比較対象男子との間で、仕事の配置、教育、研修、転換、昇給、昇級、昇格、昇進等の扱いにおいて差別を受け、その結果、比較対象男子との賃金格差相当の損害を被っているが、そのうち昭和六〇年八月から平成一〇年一二月までの損害金合計は別紙1請求金一覧表の「過去の差額賃金相当損害金」欄記載の各金額となる。
また、被告会社の権利侵害が早急に是正されない限り、差額賃金相当の損害は将来も継続するが、その金額は同一覧表「差額賃金(月額)」欄記載の各金額である。
(二) 精神的損害
原告らが被った精神的苦痛についての慰謝料を算定するに当たっては、以下の事情が考慮されるべきである。
ア かかる男女差別は行為態様が意図的、継続的でかつ大量の被害者を常時生み出す構造的なものであり、被告会社のような大企業で長年にわたって継続されていることによる社会的悪影響は計り知れず、慰謝料は企業に対する制裁的な要素をもつものでなければならない。
イ かかる男女差別は、企業の優越的地位に基づいて行っているものであり、企業側には制度を改革する権限がある一方、労働者側にはかかる制度的差別を防止する手段がなく、身分の互換性がない。
ウ 労働者の生存の糧である賃金について差別が行われることは、ひいては労働者の人生設計に重大な影響を与えるものである。しかも、原告らが請求する差額賃金相当額の賠償請求は過去十数年分に限定されているが、原告らが被った損害はその間にとどまらない。
以上のような諸事情等に照らせば、原告らの慰謝料としては、いずれも右「過去の差額賃金相当損害金」と同額とするのが相当である。
(三) 弁護士費用
別紙1請求金一覧表「弁護士費用」欄記載の各金額が相当である。
2 予備的請求
(一) 第一次的予備的請求
(1) 被告会社が前記是正義務を履行したならば、勤続年数からして十分な職務遂行能力を有している原告らは、昭和五五年から職種転換審査の受験を開始したとして、遅くとも三回目の昭和五七年には合格していたと考えられ、翌年の昭和五八年には専門職へ転換していたものとみなすことができる。
そして専門職へ転換してからの昇格経緯は、比較対象男子の昇格経緯(専門職を六年で専門職二級、専門職二級を六年で専門職一級、専門職一級を三年で管理職補、管理職補二年で主査)に等しい経過をたどっていたと考えられるから、原告らは昭和五八年に専門職に転換し、平成元年に専門職二級、平成七年に専門職一級、平成一〇年に管理職補へそれぞれ昇任したはずである。
(2) 損害額の算定
ア 差額賃金相当額
原告らが右のような職種転換及び昇任経緯をたどった場合の予想される賃金額は別紙15の1「予想賃金計算書①(原告甲野)」及び別紙15の2「同(原告乙山)」の「八三年に専門職に転換した場合の賃金」欄記載のとおりであり、予想される右賃金額と原告らの現実の賃金額との差額に相当する平成一二年二月分までの損害金合計は別紙3請求金一覧表①の「過去の差額賃金相当損害金」欄記載の各金額となる。
また、その後も継続して生じると予想される差額賃金相当の損害額は同一覧表①「差額賃金相当損害金(月額)」欄記載の各金額である。
イ 慰謝料は、右過去の差額賃金相当額と同額が相当である。
ウ 弁護士費用は、同一覧表①の「弁護士費用」欄記載の各金額が相当である。
(二) 第二次的予備的請求
(1) 被告会社が前記是正義務を履行し、均等法施行(昭和六一年)と同時に、専門職に準ずる教育を実施し、職務の配置を行っていたならば、被告会社は、原告らを昭和六二年には専門職に転換させることが可能であったと考えられる。
そして専門職へ転換してからの昇任経緯は、比較対象男子の昇任経緯(前同)とほぼ同じ経過をたどったが、原告甲野の場合はその勤務年数からして専門職から専門職二級への昇任には三年で十分であったと考えられるから、原告らは、昭和六二年に専門職に転換し、平成二年に専門職二級、平成八年に専門職一級、平成一一年に管理職補へそれぞれ昇任したはずである。
(2) 損害額の算定
ア 差額賃金相当額
原告らが右のような職種転換及び昇任経緯をたどった場合の予想される賃金額は別紙16の1「予想賃金計算書②(原告甲野)」及び別紙16の2「同(原告乙山)」の「八七年に専門職に転換した場合の賃金」欄記載のとおりであり、予想される右賃金額と原告らの現実の賃金額との差額に相当する平成一二年二月分までの損害金合計は別紙3請求金一覧表②の「過去の差額賃金相当損害金」欄記載の各金額となる。
また、その後も継続して生じると予想される差額賃金相当の損害額は同一覧表②の「差額賃金相当損害金(月額)」欄記載の各金額である。
イ 慰謝料は、右過去の差額賃金相当額と同額が相当である。
ウ 弁護士費用は、同一覧表②の「弁護士費用」欄記載の各金額が相当である。
(被告会社)
すべて争う。
四 争点4(本件不開始決定の違法性)について
(原告ら)
1 女子差別撤廃条約の内容
女子差別撤廃条約は、「女子に対する差別」を、「性に基づく区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のいかなる分野においても、女子が男女の平等を基礎として人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを害し又は無効にする効果又は目的を有するものをいう。」と定義し(一条)、締約国の義務として、男女平等原則の実現や女子差別の禁止のための適当な措置をとること(二条)を規定し、労働の項を取り扱う条約一一条でも、「同一の雇用機会についての権利」(一項b)「昇進の権利」や「労働にかかるすべての給付等の権利」(一項c)について、女子に対する差別撤廃のための適当な措置をとることを締約国に求めている。
したがって、被告国が、採用段階や昇進等における男女間での差別扱いを容認することは条約違反である。
(一) 差別禁止条項の即時実施義務
条約二条は、明文をもって、締約国は「遅滞なく」女子差別撤廃の政策を追求することに合意すると定めており、漸進的実現という考え方を排除しているのであるから、締約国は、自国の文化が許容する限度でしか行動できないと主張することは許されない。
ただ、差別撤廃の政策が遅滞なく実施されても、撤廃の効果がすぐさま実際に現れるとは限らないところから、条約一八条により、締約国は、差別撤廃のためにとった措置とそれによる進歩、前進の状況を定期的に報告することを要求されているのである。
(二) 被告国の差別是正義務
女子差別撤廃条約一条の「女子差別」の定義からして、それが均等法制定の以前にまで溯るものであっても、その効果が今日なお継続している以上、現行法の適用の下で対処されなければならない。これは、締約国に差別是正義務を負わせたものである。
2 被告国の本件不開始決定の違法性
大阪婦人少年室長は、原告らの本件調停申請に対し、均等法一五条の調停対象となる紛争の存在は認められるとしながら、「調停開始の必要性がない」との理由で本件不開始決定をしたが、その根拠は「募集・採用区分が異なることを理由とする配置あるいは昇進からの排除は『女子であることを理由とする』排除に当たらず」、したがって、本件調停申請には、均等法違反の事実や指針に照らし問題となる事実が認められないというものであった。
しかしながら、均等法や指針に違反する事実が認められないとの判断は以下に述べるとおり誤ったものであり、これに基づいてなされた本件不開始決定には、本件調停申請が調停開始要件である「均等法一四条に規定する紛争(第七条を除く)であること」(均等法一五条)に該当するかの事実認定及び法的評価を誤った違法があり、そうでないとしても、「必要性」の判断における裁量権の限界を超えた違法がある。
(一) 採用区分を理由として、指針違反を否定したことの誤り
(1) 均等法施行規則三条は、均等法一四条の対象事項について、努力義務規定にかかる措置については、指針に定められた事項に限定しているところ、指針は、「事業主が講ずるように努めるべき措置」について、次のように定めている。
二(1)イ「募集又は採用に当たって、募集・採用区分ごとに、女子であることを理由として募集又は採用の対象から女子を排除しないこと」
二(2)イ「一定の職務への配置に当たって、女子であることを理由として、その対象から女子労働者を排除しないこと」
二(3)イ「昇進に当たって、女子であることを理由として、その対象から女子労働者を排除しないこと」
(2) 指針は、募集、採用についての女子であることを理由とした排除を、「募集・採用区分」ごとに判断することとして、均等法そのものには存在しない採用区分による限定を持ち込んでいる。
しかしながら、採用区分の設定において男女差別が存在すれば、男女の均等取扱いあるいは機会の均等が、同一条件の男女間で議論されるものとはいいえないものとなるのであるから、本来、均等法に基づく指針において示される企業の努力義務は、このような採用区分による男女の平均的な就業実態の差を解消していくことを目指すものでなければならないはずである。
しかも、大阪婦人少年室長は、「募集・採用区分」という判断基準を、配置、昇進の措置についても適用し、「募集・採用区分が異なることを理由とする配置あるいは昇進からの排除は『女子であることを理由とする』排除に当たらない」という解釈を導き出した。
指針は、募集、採用区分が合理性を有しない場合にまで、募集、採用区分ごとに配置、昇進の平等を判断することになれば、募集、採用段階での男女差別が、配置、昇進において継続することになるから、配置、昇進における措置について「募集・採用区分」による限定を設けなかったものと考えられる。
大阪婦人室長の右解釈は、採用区分による男女の平均的な就業実態の差異を固定化するものであり、女子差別撤廃条約、憲法、均等法及び指針の趣旨に反する。
よって、大阪婦人少年室長が、採用区分の違いを理由に、本件調停申請に対し指針違反を否定し、ひいては調停開始の必要性を否定したこと自体が違法である。
(二) 「男女別採用」を「採用区分」としたことの誤り
配置、昇進に関する指針においても、採用区分による限定が存在するものと解したとしても、大阪婦人少年室長は、被告会社の男女別労務管理を、指針における採用区分と判断した点において、採用区分の解釈を誤ったものである。
(1) 被告会社における男女別労務管理
被告会社においては、採用はあくまでも「社員」として一本の採用で行われ、専門職、一般職(事務職)の区分は、配置の段階で行われているものであって採用区分とはいえないのである。
仮に、昭和四一年制度の専門職、事務職の区分を採用区分としてとらえたとしても、原告らと同時期に、原告らと同じ事務職で入社した高卒男子が存在するのであって、その後、これら高卒男子すべてが専門職に転換していったことは、採用区分の違いで合理化しうるものではなく、この転換の運用自体が男女差別であり、均等法八条に違反するものである。
昭和四一年制度における事務職について、被告会社は、全社採用と事業所採用という採用区分を持ち出し、全社採用とは、将来は専門職(将来の幹部候補要員)に配置する社員としての位置付けで、高卒男子を採用したものであり、他方、事業所採用とは、単に事務遂行のための社員との位置付けで、短大及び高卒女子を採用するというものであったと主張しているが、これは紛れもない男女別採用である。そして、高卒男子事務職がすべて専門職に転換した後は、専門職、事務職の採用区分が、全社採用、事業所採用の区分にかわって用いられているに過ぎないし、現行制度における専門職、一般職の区分も、男女別の労務管理を「職種」に置き換えたものに過ぎず、原告らにとっては、専門職への門戸が開放されてはいない。
一般職の女子の管理職割合と専門職の男子の管理職割合を比較すると、女子の管理職割合は、0.8パーセントに過ぎないのに、男子の管理職割合は一九パーセントであって、顕著な差があり、このような大量観察の結果をもってしても、被告会社の男女差別は明白である。
このような被告会社における男女別労務管理が、女子差別撤廃条約において定義されている女子差別に当たることは明らかである。
(2) 本件調停不開始決定における大阪婦人少年室長の条約違反
女子差別撤廃条約に照らして、前記指針における「募集・採用区分」は、男女差別に当たらない「募集又は採用区分」のみをさすものと解されるべきであり、募集、採用区分における合理性を判断するに当たって最小限必要なことは、募集採用の段階で募集、採用区分ごとの職種、資格、雇用形態、就業形態等が明示されるとともに、複数の募集、採用区分が設けられる場合には、労働者にその選択の機会を与えているかどうかが考慮されるべきであり、そのような選択の機会が与えられている募集、採用区分に限って、均等法適用の限界を画する募集、採用区分として扱われるべきである。そのように限定して解さなければ、募集、採用段階からの男女差別の事案については、その差別を温存する結果となり、女子に対するあらゆる差別を撤廃することを求める条約の要請を満たすことができないからである。
そのことは、その男女別の募集又は採用区分の設定が、均等法施行前に行われていたとしても同じである。条約一条は、人権や基本的自由を享有し、行使することを無効にする「効果」をもたらすものをも女子に対する差別の中に含めており、条約二条は、国によるものであれ、個人、団体、企業によるものであれ、慣習や慣行を含む女子に対する「すべての差別」の撤廃を求めているから、その差別の結果が現存している限り、その原因が法律制定前から行われていたからといって許されるものではないからである。このことは均等法に遡及効果を認めるものではなく、均等法を将来にわたって適切に運用することに過ぎない。
しかるに、原告らが被告会社に応募する時点で、原告らは専門職、事務職の区分は何ら説明を受けておらず、原告らには事業所採用の事務職で採用されるしか選択の余地がなかったし、入社後も専門職への転換の機会を与えられないままに、事務職に据え置かれ、現行制度の導入の際にも、その意向を何ら聴取されることなく一般職に移行させられた。専門職、一般職の区分は、原告らの意思と何らかかわりのない、被告会社が一方的に決定した社内の区分であり、過去の専門職、事務職による男女別労務管理の置き換えに過ぎず、このような区分を理由に、原告らが一般職であるとして、専門職男子との処遇の格差の主張を、均等法の対象外とされてしまうのではあまりにも不合理である。
大阪婦人少年室長は、指針が女子差別撤廃条約違反とならないよう適切に解釈する義務があるにもかかわらず、その義務に違反して、被告会社が主張する全社採用、事業所採用の区分を、指針における「募集・採用区分」に当たると判断したものであり、同室長の本件不開始決定は、その要件の判断を誤ったものとして違法である。
(3) 本件調停不開始決定における大阪婦人少年室長の憲法違反
被告国は、被告会社の男女別労務管理を、昭和四〇年代当時は珍しくなかったからとの理由で違法でなかったと主張しており、このような被告国の認識を基礎にして、大阪婦人少年室長は、被告会社が主張する全社採用、事業所採用の区分を、前記指針における「募集・採用区分」に当たると判断し、原告らが、高卒男子と比較して昇進、昇格において著しい差があったとしても、それは「採用区分」の違いであって、「女子であることを理由にしたものではない」と判断した。そして、さらに、被告会社の採用区分を合法化することによって、被告国は、被告会社の是正義務をも否定している。
しかしながら、被告会社の男女別労務管理は、昭和四〇年代においても憲法に違反し、また公序良俗にも違反するものである。昭和四〇年代から昭和五〇年代において、女子の雇用における差別を違法とする裁判例が数々出され、それらの裁判例は、憲法一四条を頂点とし、労働基準法三条、四条等において具体化された「雇用における差別禁止の法理」を明確にしたが、この差別禁止の法理は、過去に差別をしていることを理由に、現在の差別を免罪するような結果を決して容認するものではない。
そして、少なくとも均等法施行後において、男女別採用が均等法違反になることは疑う余地がない。
しかるに、本件不開始決定は、まさに被告会社が過去において憲法違反の男女別採用を行なっていたが故に、均等法施行後も、同法違反を問われずにすむという、明らかに社会的正義に反する結果を招来するものである。
大阪婦人少年室長のした本件不開始決定は、憲法一四条の解釈を誤り、ひいては労働基準法三条、同四条等において具体化された「雇用における差別禁止の法理」に違反したものといわざるをえない。
(被告国)
1 均等法の概要
(一) 均等法は、法律の制定、改廃は、現状から遊離したものであってはならず、女子労働者の就業実態や職業意識、我が国の雇用慣行等の社会、経済の現状を十分踏まえたものとすることが必要であるとの考えの下に立法作業が行われた結果、雇用におけるすべての男女差別を禁止しているわけではない。
均等法において定められた事業主の講ずべき措置については、いわゆる禁止規定と努力規定の二種に分けられており、「募集及び採用」(均等法七条)、「配置及び昇進」(同法八条)に関する女子労働者の均等取扱いは事業主の努力義務とされた。
(二) 配置、昇進、募集、採用に関する事業主の努力義務
均等法一二条の委任を受けた指針は、同法七条、八条の募集、採用、配置、昇進に関し、事業主が講ずるように努めるべき措置を定めている(原告ら主張のとおり)が、これらの各項目にいう「排除しないこと」とは、「機会を与えること」の意であり、昇進や配置において女子が男子と同一の数又は割合で地位を得るといった「結果」の平等についてまで求めるものではない。
なお、指針二(一)イにいう「募集・採用区分」とは、事業主が労働者を募集し、又は採用するに当たって設定する区分であり、通常その区分により制度的に異なる労務管理を行うことを予定して設定しているもののことである。指針は、企業において、制度的に募集、採用区分ごとに異なる労務管理が行われている現状から、募集、採用区分が異なることを理由とする配置あるいは昇進からの排除は「女子であることを理由とする」排除に当たらないとしている。
(三) 事業主の講ずる措置についての紛争解決のための措置
均等法一四条は、「事業主の措置で労働省令で定めるもの」についての女子労働者と事業主との間の「紛争」に関し、婦人少年室長が関係当事者に必要な助言、指導又は勧告をすることができる旨規定しているが、この「事業主の措置で労働省令で定めるもの」については施行規則三条が「指針において定められた事項に関する措置」としている。
そして、均等法一五条は、婦人少年室長が、機会均等調停委員会に調停を行わせる場合について規定しているが、調停対象事項としては「前条に規定する紛争(第七条に定める事項についての紛争を除く。)」と定めて、募集及び採用(均等法七条)に関して指針に定められた事項に関する措置についての紛争は除外されている。
(四) 均等法の適用の時期
均等法に関しては、施行日に係る経過措置や遡及適用に係る規定もないから、将来に向かってのみ効力を生ずることになる。
均等法には遡及効がないことから、過去の男女別労務管理等の結果、男子と異なる職務経験を重ねてきた女子について、施行日時点において、能力等に男女間で差異が生じていたとしても、その違いに基づいて施行日以後雇用管理上の取扱いを異にすることは均等法に違反するものではない。
2 女子差別撤廃条約の要請と均等法に関する原告らの主張について
(一) 原告らは、女子差別撤廃条約二条の解釈として「女子に対するすべての差別を禁止するもの」であり、締約国はこれらの義務を「ただちに」開始しなければならないと主張しているが、以下の理由から失当である。
(1) 女子差別撤廃条約は、二条柱書きで、「女子に対する差別を撤廃する政策を遅滞なく追求する」とし、また一八条が、締約国に、「女子に対する差別の撤廃に関する委員会」に対する、この条約の実施のためにとった措置及び進歩に関する報告を定期的に提出することを要求しており、これらによれば、締約国が女子に対する差別撤廃の目的を条約批准時にすべての分野で達成していることは要求されておらず、ある程度の期間をかけて漸進的に右目的を達成することが予定されていることは明らかである。
(2) 女子差別撤廃条約二条は、右条約の目的を達成するための主要な政策実施手段を一般的に列挙し、同条bはその一つとして「女子に対するすべての差別を禁止する適当な立法その他の措置(適当な場合には制裁を含む。)をとること」と規定したものに過ぎず、差別を禁止するための措置がすべて法律である必要はないし、すべて禁止規定である必要もないことは文言からも明らかである。
雇用の分野で締約国が措置すべき事項を定めているのは同条約一一条であるが、そこでも、締約国は自国の国情に応じて適当と判断する措置をとって、女子差別撤廃条約の実施を確保していくこととされている。
(二) 原告らは、募集、採用区分の違いによる雇用管理上の取扱いの差異は、均等法の関与するところではないとの解釈が指針から導き出されており、指針による均等法の「限定的解釈」が均等法施行規則によって持ち込まれていると主張するが、次の理由により失当である。
(1) 本来、男女の均等取扱いあるいは機会の均等とは、同一の条件を満たす男女間で議論されるべきものであり、その意味で募集、採用区分の異なる男女に対する均等な取扱いは均等法が当初から予定していないものである。指針は、均等法七条、八条にかかる男女の「均等」についてのかかる解釈を前提とした上で策定されたものである。
(2) 原告らは施行規則三条の性格を誤解している。
均等法一四条に基づく婦人少年室長の紛争解決の援助や同法一五条に基づく機会均等調停委員会の調停は、同法が事業主に講ずることを要請している措置について、その実現を図ることを目的として定められた行政サービスの一つであり、施行規則三条は、この行政サービスをどの範囲まで実施するかを明示した条文であって、均等法七条、八条そのものの内容や範囲を画するものではない。
3 本件調停申請と本件不開始決定
(一) 調停開始の要件について
均等法の規定によれば、調停申請を受けた婦人少年室長が調停開始決定をするためには、次の三つの要件を満たすことが必要である。
(1) 法令に定める調停対象事項に該当する紛争が存在すること。
(2) 調停を行うことが当該紛争の解決のために必要であると認められること。
(3) 関係当事者の一方から調停の申請があった場合には、他の関係当事者が調停を行うことに同意すること。
調停の必要性の判断については、婦人少年室長に、均等法及び指針の趣旨に反しない範囲での具体的事案に応じた広範な裁量権が認められている。
(二) 本件不開始決定の理由(原告乙山申請の「出張」に係る紛争は除く。)
(1) 本件調停申請における原告らの主張は、一般職一級という職種職分にとどめ置かれていることが均等法八条及び指針二(三)イに反するというものであった。
(2) これに対する被告国の判断は次のとおりである。
ア 原告らを一般職一級にとどめそれより上位の職分職級に位置付けていないことについて、原告らは指針二(三)イの昇進に当たっての女子であることを理由とする排除であるとし、被告会社はそのような排除ではないとして、その主張が一致せず対立があることから、昇進に関する紛争は存在すると認められた。
イ しかしながら、
① 原告らが主張する同期同学歴の男子との格差については、原告らが比較の対象に取り上げた男子社員が、管理職昇格前も原告らとは異なる職分である専門職に所属しており、専門職に転換する以前も、原告らは勤務地限定のある事業所採用であるのに対し、当該男子社員は勤務地限定のない全社採用であり、求人対象、採用試験の内容及び選考基準、採用時期、入社後の研修等が異なっており、原告らとは募集、採用区分が異なる。
募集、採用区分の違いによる雇用管理上の取扱いの差異は、均等法の関与するところではないことから、原告らが比較の対象とした男子社員は、「均等な取扱い」に反すると判断する際の比較の対象とはなしえない。
② 原告らが主張する管理職割合の男女間格差については、採用区分の異なる者を比較の対象に含めており、合理的な比較対象と考えられる一般職の中でみると、一般職から昇進した女子の管理職が一九名存在していた。
以上のことから、原告ら及び被告会社間の紛争の原因は、原告らが均等法の趣旨、解釈について誤解し、比較の対象とすべき男子社員を誤り、かつ原告らの採用区分で採用された者の中での管理職の割合について事実を正確に把握せずに一方的な主張をしていることによるものであり、管理職への女子の登用に係る被告会社の対応については、均等法違反の事実はもとより、指針に照らし問題となる事実が認められず、調停を開始したとしても、被告会社が譲歩する余地は極めて少ないと考えられた。
均等法及び指針に照らし違反や問題となる事実が認められない事案については、損害回復のための調停案を提示するための調停を行う余地はない。
本件不開始決定は大阪婦人少年室長が以上の事情を総合考慮した結果であり違法はない。
五 争点5(本件不開始決定による原告らの損害)について
(原告ら)
女子差別撤廃条約は「女子を効果的に保護」することを求めており(条約二条c)、紛争解決が効果的に行なわれるためには、紛争当事者の手続的な権利保障が出発点でなければならない。したがって、「調停を受ける機会」についての当事者の権利性が承認されるべきである。
しかるに、原告らは大阪婦人少年室長の本件不開始決定によって、調停を利用する期待を奪われたばかりか、被告会社に均等法違反はないとの、女子差別撤廃条約や憲法にも違反する判断を明らかにされることによって、著しい精神的苦痛を受けた。原告らのかかる精神的苦痛をあえて金銭で慰謝するとすれば金一〇〇万円をもって相当とする。
(被告国)
均等法による調停制度は、紛争解決援助のための行政サービスであって、原告らに調停請求権(調停を受ける権利)を認めたものでないことはもとより、原告らが主張する「調停を受ける期待」や「調停を受ける機会」も、未だ法的保護に値する権利とはいえず、この侵害が国家賠償法上の違法性の根拠にはなりえないというべきである。
したがって、調停によって男女差別が是正されるとの期待が、本件不開始決定により裏切られて損害を被ったとする原告らの主張には理由がない。
第四 当裁判所の判断
一 争点1(被告会社に対する主位的請求―事務職の男女別処遇が違法な男女差別か)について
1 格差の存在
(一) 証拠(乙三〇、三二の1ないし3、三六、三七、三八)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 高卒事務職男女間の職分昇進の格差
被告会社は、昭和四三年から昭和五二年までの間に新卒の高卒男子を事務職として採用したが、このうち平成一一年一二月時点での在職者は三四名であり、その昇進経緯は別紙17「昇進期間表(全社採用高卒男子事務職)」記載のとおりである。
他方、被告会社は、新卒の高卒女子を事務職として採用していたが、昭和四一年から昭和五二年までの間に採用された者で、平成一一年一二月時点での在職者は四六名であり、その昇進経緯は別紙18「昇進期間表(事業所採用高卒女子事務職)」記載のとおりである。
これら在職者の昇進経緯等を比較すると、
ア 男子は、二四名(約七一パーセント)が勤続年数五年目に専門職に転換し、八年目には全員が専門職に転換したうえで、勤続一四年目で全員が専門職二級に、さらに、勤続一八年目で三三名(約九七パーセント)が専門職一級に昇進しているのに対し、女子で専門職に転換した者はいない。
女子のうち、事務職から事務職(一般職)二級への昇進は勤続一四年目にして半数を超える二六名(約五七パーセント)であり、事務職(一般職)一級への昇進は勤続二〇年目にして二六名であり、勤続二六年目でなお一般職二級以下の者が五名(約一一パーセント)存する。
イ 男子は、三三名(約九七パーセント)が勤続二一年目までに管理職補に昇進しているのに対し、女子は、一四名(約三〇パーセント)が管理職補に昇進したが、勤続二四年ないし二九年を要している。
ウ 男子は三一名(約九一パーセント)が勤続二四年目までに管理職主査に昇進し、一八名(約五三パーセント)が勤続二八年目までに管理職主席に昇進しているのに対し、女子のうち、管理職主査に昇進したのは勤続二六年目に三名、勤続二七年目に四名の合計七名(約一七パーセント)に過ぎず、管理職主席に昇進した者はいない。
(2) 高卒事務職男女間の賃金格差
右の男女間の平成八年ないし平成一一年各二月の平均賃金(管理職主席は月報酬額、管理職主査は本俸、生産奨励金及び職務手当の合計額、一般職は本俸、生産奨励金及び職務加給の合計額の平均である。なお、海外駐在等のため賃金体系の異なる者、病気欠勤等賃金減額事由のある者を除く。)は別紙19「賃金比較表」記載のとおりである。
これによると、男子の平均賃金は入社時期が古くなるのに比例して高額になっており、他方、女子の平均賃金も大まかな傾向としては同様である(昭和四一年及び昭和四二年入社がほぼ同水準、昭和四四年ないし昭和四六年入社がほぼ同水準、昭和四八年ないし昭和五〇年がほぼ同水準で、入社年度が古くなるほど平均賃金は高額になっている。)が、部分的には入社時期の新旧にもかかわらず平均賃金額の多寡が逆転しているところも少なくなく(昭和四三年及び昭和四七年入社の女子の平均賃金はその前後の年度に入社した女子の平均賃金よりかなり高額であり、また、後から入社した女子の平均賃金が早く入社した女子の平均賃金より高いという場合が散見される。)、しかも全般的に男子の平均賃金より低額であり、男女間には最低でも八万〇九三七円(昭和五二年入社男女の平成八年二月の平均比較)、最高では二四万八三一〇円(昭和四四年入社男女の平成一〇年二月の平均比較)という格差が存在する。
(3) 原告らと比較対象男子との昇進格差
比較対象男子五名の昇進経過は、前記前提事実記載のとおりであるが、原告らは、本件口頭弁論終結時点でも一般職一級である。
(4) 原告らと比較対象男子との職級及び賃金格差
ア 比較対象男子の平均賃金等のうち、昭和六〇年(一九八五年)から平成元年までの職級及び職務加給、平成二年(一九九〇年)から平成一〇年までの平均賃金等は、別紙11「職分・職級・賃金比較表(原告甲野)」の「一九六九年入社高卒男子五名の職分・職級・賃金の推移(平均)」欄に記載されたとおりである(被告会社は、職種、職分と賃金とは直接の相関関係にないと主張しているが、弁論の全趣旨によれば、職分昇任には、職級を基準とした推薦基準があると認められるし、専門職二級昇任時の職級は六級A一号に、専門職一級昇任時の職級は七級B一号に、管理職補昇任時の職級は七級C一号にそれぞれ格づけられるという職級運用が存することに争いはない。他方、乙三八によれば、比較対象男子の平成二年以降、管理職主席に昇格した平成七年までの本俸平均額は、右別紙11記載の金額より高額であることが認められる。また、乙三二の1ないし3によれば、比較対象男子の平成八年ないし平成一〇年各二月の賃金月額(家族手当及び家賃補助手当を除く基準内賃金額)は右別紙11記載の本俸額を上まわることが認められる。そして、生産奨励金及び期末手当の賞与最低保証額は本俸から自動的に定まるものであるし、職務加給も職級及び職級内区分が決まれば、後記のとおり、労使交渉の結果定められた職務加給テーブルからその金額が導き出せるものであり、期末手当の臨時特別手当も本俸及び職務加給から自動的に定まるものである。右別紙11に記載された比較対象男子の賃金額は原告らの推定にかかるものではあるが、右のとおりの賃金算定方法にしたがって推定されたものであり、不合理な推定ではない。また、臨時特別手当には、扶養家族に応じて支給される付加も含まれていないと認められる。しかるに、被告会社は、原告が第一五回準備書面において比較対象男子の賃金の推移を個別に主張するなどしたのに対し、比較対象男子の本俸平均額の推移表(乙三八)を提出した以外には、原告らの右推定に対し、個別の認否や反証をしていない。以上を総合すると、少なくとも、平成二年以後の比較対象男子の賃金等については右別紙11記載のとおりと認めるのが相当であるが、昭和六二年から平成元年までの本俸及び生産奨励金については、乙三八によって認められる平均本俸額にしたがって修正されるべきである)。
イ 原告甲野の昭和六〇年から平成一〇年まで賃金等及び比較対象男子との平成二年以後の賃金差額は、それぞれ右別紙11の「原告甲野の職分・職級・賃金の推移」「差額賃金」覧に各記載のとおりである。
原告乙山の昭和六〇年から平成一〇年まで賃金等及び比較対象男子との平成二年以後の賃金差額は、それぞれ別紙12「職分・職級・賃金比較表(原告乙山)」の「原告乙山の職分・職級・賃金の推移」「差額賃金」覧に各記載のとおりである。
これらによれば、原告らと比較対象男子との賃金格差は、基準内賃金だけでも、平成一〇年には月額二〇万円を超えるものとなっている。
(二) 以上によれば、事務職(一般職)で採用された男女間でみる限り、男子には勤続年数とともに職分が昇進して行く傾向にあることが認められるし、職級運用の実態(職分昇任の推薦基準や昇任後の格付見直しが存することによって、職級と職分との間に一定の対応関係が認められること)からすると職分昇進に合わせて職級もほぼ並列的に昇格していっているものと推認されるが、女子の場合には、男子に比して職分昇進が著しく遅いうえ、勤続年数との相関関係も認められない。
また、賃金格差も、著しく大きなものになっていると認められる。
2 男女間格差の原因
右のとおり、事務職(一般職)で採用された男女間については、職分昇進、昇級、賃金について、顕著な男女間格差が認められるのであるが、かかる男女間の格差の原因について、原告らは、被告会社の男女別労務管理によるものであると主張するのに対し、被告会社は、これを否定して事業所採用、全社採用という採用区分による処遇の違いによるものであると主張する。
そこで、以下では、右のような男女間格差の生じた原因について検討する。
(一) 証拠(関係証拠は各項目ごとに挙示する。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 賃金制度(甲一四、一七、二三ないし二六、乙三、四、二六、二七、証人高橋)
被告会社の賃金制度の概要は、前記前提事実のとおりである。
このうち、初任本俸は各職種ごとに初任給テーブルが定められており、職務加給の金額自体は毎年春の労使交渉の都度、テーブルが取り決められている。
そして、家族手当、家賃補助手当、期末賞与の臨時特別手当に含まれる付加は客観的な基準で金額が定まるし、生産奨励金及び期末手当の賞与の最低保障は本俸に、期末手当の付加を除く臨時特別手当部分は賞与及び職務加給にそれぞれ連動しているから、結局、社員間の賃金格差をもたらす原因となるのは、本俸の定期昇給額、職務加給を決定することになる職級及び職級内区分の格付、期末手当の賞与加算部分ということになるが、これらは被告会社が決定している。
(2) 人事考課(甲一四、一七、二三ないし二六、乙三、四、二六、二七、証人高橋)
ア 被告会社は、右の定期昇給額及び期末賞与の賞与部分加算額の決定、職務加給の格付の見直しを、以下のような人事考課に基づいて行うこととしている。
① 定期昇給額は、本社人事部が定めた実施方法に基づき、部長が、所属社員について、課長の意見を聴取した上で、所定の対象期間(一年間)における勤務成績等を考課査定することにより行う。
定期昇給は、職種、職分ごとに実施方法が決定されることになっており、昇級額は、上位の職種、職分になるほど高額である。
具体的には、一般職の場合であれば、通常勤務者(欠勤等のない者)の最低昇給額(平成七年度は一五〇〇円)と加減単位額(同年度は一〇〇円)を設定し(この昇給額のテーブルは例年概ね同一である)、考課査定の結果に基づき、原則として、各人の前年度昇給額に右加減単位額一単位の幅で増減を決定することとされている。なお、専門職の場合は右の最低保証額が一般職よりも高額(二千数百円)である。
② 期末賞与の賞与部分加算も定期昇給の場合と同様の人事考課に基づき、半年を対象期間として、職種、職分ごとに行う。
③ 職務加給の格付見直しは、年二回の定例見直しのほか職分昇任が認められた際にも行われるが、職務評価要綱が定められており、部長が、職務内容、責任、監督及び被監督の態様という各観点から、各社員が従事する職務がどの職級及び職級内区分に格付されるかを考課査定し、人事課と協議して決定する。
イ 以上のほか、被告会社では例年一月に、職分の昇任を実施してきており、この職分昇任の判定も、各職分について定められた任用基準に該当するか否かを人事考課により査定して行うこととされている。職分昇任については、一般職二級への昇任の場合は、原則として職級四級の成績優秀者、一般職一級への昇任の場合は原則として職級五級の成績優秀者などとする昇格推薦基準が設けられており、部長が課長の意見を聴取し、所属社員の候補者の中から推薦者を決定して人事課に提出し、人事課において各部長から提出された推薦者が推薦基準に合致するか否かを判定して職分昇任を決定することとされている。ただし、専門職内の職分昇任については昇進審査の受審が原則とされている。
なお、職分昇任が直接賃金に影響するものとはされていないが、職分昇進の際には、職務加給の見直しが行われ、専門職二級昇任時の職級は六級A一号に、専門職一級昇任時の職級は七級B一号に、管理職補昇任時の職級は七級C一号にそれぞれ格づけられるという職級運用がなされており、結局、職級昇級を経由することによって賃金が増額する扱いとなっている。
ウ 人事考課の結果は、社員には開示されていない。
(3) 採用区分とその内容(甲一〇、二七、五八、五九、乙一、二、七、八、一六ないし一八、二二、二三、二五、二七、三〇、原告乙山、同甲野、証人福嶋、同高橋)
ア 全社採用と事業所採用について
被告会社では、社員の採用について、職種及び職分制度を導入する以前から、将来の幹部候補要員として国内外各地の事業所に配置することを前提に、本社が人員計画を立て一括して募集、採用する全社採用と、各事業所における一般事務や現場業務に従事する者として当該事業所が本社による全社的な人員調整等を受けながらも独自に募集、採用する事業所採用の二種類の採用方法をとってきた。本社においても、事業所としての本社の立場で、全社採用とは別に事業所採用を行ってきた。
職種、職分制度導入後は、それぞれの職種ごとに、全社採用か事業所採用か等の採用方法や採用条件を決めて募集しており、原告らが採用された昭和四一年制度のもとでは、専門職は大卒見込の男子を対象とした全社採用であったが、作業職、保安職、庶務職及び医務職はすべて勤務地限定の事業所採用であった。
事務職も原則として事業所採用であり、対象は高卒女子とされていたが、昭和四三年から五二年にかけて全社採用ではあるものの高卒男子も採用された。これは、高卒男子事務職が、大卒の専門職に準ずる将来の中堅幹部候補要員として位置付けられ、全国に展開して勤務することを予定し、勤務地を限定しない条件で採用されたのに対し、高卒女子事務職は、事業所限りで、定型的補助的一般事務を担当する社員として位置付けられ、勤務地を限定して採用されたことによるものであった。
その当時における全社採用と事業所採用との採用方法における主な差異は次のとおりであり、現行制度上もほぼ同様である。
① 募集選考方法
ⅰ 採用担当部門
全社採用は本社人事部が、事業所採用は各事業所の人事担当課がそれぞれ主管した。事業所としての本社の事業所採用については、本社人事部が主管していたが、採用責任者は人事部長ではなく、部長補佐であった。
ⅱ 募集対象者
全社採用の専門職は全国の大卒見込みの男子が、全社採用の事務職は被告会社が指定した全国各地の商業高校や工業高校卒業見込みの男子が募集対象とされていた。
事業所採用の作業職や女子事務職は、各事業所所在地域の被告会社指定の学校を対象に求人募集がなされており、作業職は概ね中卒及び高卒見込みの男子が、女子事務職は短大卒及び高校卒見込みの女子が募集対象とされていた。
ⅲ 選考方法等
全社採用の専門職や事務職は、高度の専門知識を吸収していく能力が問われることから学力に重点が置かれており、高卒男子事務職の場合であれば、学科試験(国語、数学、英語、簿記等の専門科目)、適性検査及び人事担当役員の面接等により採否が決定されていたが、事業所採用の高卒女子事務職は、各事業所ごとに作成した試験問題による学科試験(国語、数学)、適性検査及び各事業所の人事課長の面接により採否を決定されていた。
選考日時や試験会場等も別々に設定されていた。
② 入社日時、入社式
入社式は、全社採用の専門職や事務職の場合は、本社において、専門職事務職合同で社長出席の下に行われたのに対し、事業所採用の社員の場合は、各事業所において、所長出席の下に行われた。
事業所としての本社で採用された女子事務職も入社式は本社で行われたが、部長の出席であり、日時も全社採用者の入社式とは別に設定されていた。
③ 入社時の導入教育等
全社採用の男子事務職には、本社人事部主催の下に工場実習を含めた長期(昭和四四年度では約二か月半)の実習が行われたが、事業所採用の女子事務職には各事業所限りで短期(同年度では配属の前後にわけて、合計一三日)の接遇教育等が行われるに過ぎなかった。
また、全社採用男子事務職は大卒専門職と同じ独身寮に入寮した。
④ 勤務地
全社採用は、国内外の全事業所での勤務が予定されていたが、事業所採用は当該事業所等を勤務地に限定されていた。この勤務地は募集の際の求人票にも記載されていた。
イ 原告らの採用区分
原告甲野は、昭和四四年、被告が事業所採用として実施した試験を受験して採用された。また、原告乙山は、昭和四一年、縁故により筆記試験を受けることなく、事業所採用の区分により採用された。
ウ 全社採用及び事業所採用の区分と職種及び職分制度との関係
① 旧制度
昭和三〇年代は未だ大学、高校の進学率が低く、商業高校や工業高校にも優秀な人材を求めることができたことから、被告会社では、大卒男子のみならず商業高校や工業高校出身の高卒男子も将来の幹部候補要員として全社採用の執務社員で採用しており、これに対し、生産現場で現業に従事する作業社員としては、主に新規中卒者を養成工(三年間の教育訓練期間)として採用していた。
昭和三〇年代後半ころになると、高校進学率が著しく上昇し、優秀な中卒の養成工を採用することが困難となってきたため、被告会社では、昭和三七年ころから高卒を作業社員として採用し始めていたが、昭和三八年九月に人事部長を委員長とする人事制度研究員会を設置して抜本的な制度改革の検討を行った結果、中卒養成工の採用を中止して、高卒の作業社員に採用することとし、旧制度自体も改正して昭和四一年制度に移行することとなった。
こうして、昭和四一年からは中卒養成工の採用をやめ、新規高卒者を教習生(一年の教習期間)として採用することにした。他方、作業社員から移行した作業職に高卒者を採用することになると、中堅幹部候補要員として全社採用していた高卒男子執務社員が作業職と同学歴ということになり、両者間では処遇が異なることから、高卒作業職の不満を招く等労務管理上の問題が生じかねず、これを懸念して被告会社では、昭和四〇年から全社採用の高卒男子執務社員の採用を中止した。その際も高卒女子執務社員(昭和四一年制度移行後は事務職)の採用は継続されたが、これは女子の勤続期間が平均的に短いことと高卒男子執務社員と同等業務を担当させることを予定したものではなく、同じ事業所採用であったため、高卒男子作業社員との均衡を考慮する必要がないとの判断からであった。
なお、被告会社では、高卒執務社員の採用中止に当たり、そのころ国立工業高等専門学校が発足して、昭和四二年にはその卒業生が出てくることから、従前、工業高校から採用していた技術系執務社員については、高専卒の者を採用することとしており、昭和四一年制度移行後に専門職として採用するようになった。
② 昭和四一年制度
昭和四一年制度においては、新たに専門職という職種が創設されたが、専門職は、幹部候補要員を配置する職種として位置付けられ、事務職等に比して職級も高位とされた。旧制度からの移行に際しては、専門職の右のような位置付けから、執務社員のうち、もともと幹部候補要員として全社採用していた大卒や高卒の技術系、事務系男子はそのまま専門職に移行させ、それ以外の主に定型的補助的業務を担当させていた事業所採用の高卒女子の事務員及び事務補は事務職に移行させた。ただし、大卒女子の執務社員で専門職に移行した者が若干名存する。
ところが、商業高校出身の執務社員の採用がなくなると、従来、これらの社員が行ってきた生産管理、人事労務管理といった現場に密着した管理業務を行う社員が不足するという事態が生じてきた。このため、被告会社は、昭和四三年度から、従前同様、商業高校卒業者を対象にした高卒男子社員の採用を再開したが、その際、昭和四一年制度では、高卒社員を事務職、作業職で採用していたため、労務管理上の配慮から、一旦、事務職として採用し、一定期間勤務した後、職種転換審査を受審させ、これに合格した者を専門職とするという方針で臨んだ。その後、大学進学率の上昇等から、人材確保が困難となり、高卒男子事務職の採用は昭和五二年度の採用を最後に中止された。
③ 現行制度
現行制度への制度改定は、時代にあった名称変更、全職種からの管理職昇進の可能性の明確化等を目的としたものであり、基本的には昭和四一年制度を承継するものであった。
昭和四一年制度の職種のうち、事務職、庶務職、保安職、医務職の四職種が一般職に統合され、従来の四職種の在籍者は、男女を問わず、そのまま一般職に移行させられた。
また、従前から、専門職を経由せずに管理職に昇進する例はあったが、その制度上の根拠が不明確であったため、新たに技術職(昭和四一年制度の作業職)及び一般職にも管理職補の職分が新設され、これらの職種から管理職に昇進できることが制度上も明確化され、あわせて、従来、専門職の職分昇進時にのみ実施されてきた昇進審査制度が、他の職種における管理職補昇進の際にも適用されることとなった。
④ 職種転換審査制度の廃止について
職種転換制度は、旧制度施行の際の、職掌、職種及び職分に関する規程に明記されて導入され、昭和四一年制度及び現行制度に承継されている。規定上は、被告会社が、業務上の必要により職種の変更を命じた場合のほか「必要ある場合は転換審査を実施した結果、適当と認められ」た場合に職種転換させることとされていた(昭和四一年制度及び現行制度。旧制度では「転換審査」が「詮衡及び試験」とされ、さらに、場合により試験を行なわず詮衡のみで転換されることがあるとされていた。)。
昭和四一年制度では、作業職にも高卒を採用することになったが、高卒作業職の中には設計業務等専門職的な業務に従事する者が出てきたため、これら専門職相当の能力を有すると認められた作業職社員には職種転換審査を受診させて合格者を専門職へ転換させることがあった。
また、昭和四三年から採用を再開された高卒男子事務職は、採用後専門職に転換させることが予定されており、これら高卒事務職については昭和四七年を始めとして職種転換審査を受診させ、合格者を専門職へ転換させた。
このころの職種転換審査は、専門職相当の能力が問われることから、数学、英語、専門科目、実務科目からなる学科試験と役員面接が行われており、学科試験の合格水準は高専卒業程度とされ、受験回数も三回が限度とされていた。
これに対し、高卒女子事務職は当初から、事業所限りでの定型的補助的な一般事務従事社員という位置付けであったため、被告会社は高卒女子事務職には職種転換審査を受審させることはなく、これを経由して専門職に転換した者はいない。
高卒男子事務職に対する職種転換審査は、最終採用者となった昭和五二年採用の男子事務職がすべて転換した昭和五八年の実施が最後となり、さらに、現行制度導入後は、作業職、一般職にも管理職補の職分が新設され、専門職を経由することなく管理職へ昇進する制度が明確化されたため、管理職昇進のために専門職へ職種転換する必要がなくなり、このため職種転換審査は全く実施されなくなった。
エ 全社採用、事業所採用の区分による男女間の処遇の格差の有無
① 管理職昇進の格差
平成一〇年四月一五日現在の社員の在籍状況は別紙20「在籍者一覧表」記載のとおりである。
これによると、高卒女子には専門職として在籍する者はいないが、高卒の事業所採用者のうちの管理職割合(男女とも主査、主席のみである。)は、女子が一一〇九名中一九名(約1.7パーセント)であるのに対し男子は五九〇五名中二九名(約0.5パーセント)に過ぎず、管理職補を管理職予備軍とみたてて加えても、管理職及び管理職補に占める割合は、女子が二九名(約2.6パーセント)であるのに対し、男子は九九名(約1.7パーセント)であり、さらに男子の専門職転換者まで含めてようやく二六三名(約4.5パーセント)となって、比率で女子を上回る数値となる。
他方、全社採用者はすべて、管理職または専門職であり、このうち、管理職主幹及び主席には女子は存しない(ただし、全社採用の女子はすべて大卒であり、被告会社が大卒女子を本格的に採用するようになったのは、現行制度が導入された昭和六二年以後であり、全社採用の女子に主幹、主席が存しないのは、その採用年度が比較的新しいことによると考えられる。)。
② 被告会社の昭和四〇年から昭和五二年までの間に新卒の事業所採用として採用された高卒女子事務職と高卒作業職男子の平成九年一〇月現在における採用者数、在籍者数及び職分分布状況は別紙13「高卒事務職(女子)・作業職(男子)の新卒採用者数及び在籍数」記載のとおりである。
これによると、女子には専門職に転換した者がいない点が異なるものの、在職者のうち管理職補以上に占める割合が女子は、五三名中一三名(約24.5パーセント)であるのに対し、男子では一四一二名中七〇名(約五パーセント)であり、専門職に転換した者を含めても、二〇七名(14.7パーセント)に止まる。
また、管理職補以上に昇進している社員の入社年度も男子が昭和四四年以前に採用された者で占められているの対し、女子は昭和四五年度採用者から三名が管理職主査に、また昭和四七年度採用者から三名が管理職補に昇進している。
③ 昭和四一年から昭和五二年までの間に事業所採用の作業職で採用され、平成一一年二月時点で在籍する高卒男子一三〇四名の平成一〇年及び平成一一年各二月の平均賃金は別紙21「作業職男子の平均賃金」記載のとおりである。これと、前記別紙19「賃金比較表」の事業所採用女子事務職の平均賃金とを比較すると、概ね男子の方が数万円程度高額(最高では昭和四一年入社男女の平成一〇年二月比較による五万八二二三円)ではあるが、逆に昭和四三年及び昭和四七年入社男女の間では平成一〇年及び平成一一年とも女子の平均賃金の方が男子を上回っている。
オ 被告会社における高卒女子の位置付け
被告会社では、高卒女子は定型的補助的業務に従事するとの位置付けで事業所採用の事務職(一般職)として採用し、職種転換審査を受審させることがなかったが、被告会社がこのような位置付けをした理由は次のとおりであった。
① 昭和四〇年代は、女子に勤務地の変更を伴う転勤をさせることは考えられなかったこと
② 一般的に女子は勤務期間が短く、そのため終身雇用制度を前提とする企業にとって、幹部候補要員として要求されるキャリアの蓄積が期待できなかったこと
③ 全社採用の幹部社員ともなれば、残業、休日勤務などが多くなるので、労働基準法の女子保護規定など法的な制約も多く、多忙なポストへの配置が困難であったこと
なお、昭和四三年から五二年までの全社採用の高卒男子事務職の平成一一年一二月末日現在の在職者は六一名中三四名(約55.7パーセント)であり、昭和四〇年から昭和五二年まで事業所採用の高卒男子作業職の平成九年一〇月現在の在籍者は三一六三名中一四一二名(約44.6パーセント)であるが、右同期間の事業所採用の高卒女子事務職の右同時期の在籍者は一九九六名中五三名(約2.7パーセント)である。
(二) 以上認定の事実によって判断する。
(1) まず、被告会社の賃金制度上、社員の賃金格差の発生に影響するのは定期昇給、職務加給、期末賞与の賞与部分加算であるが、定期昇給や賞与部分加算のうちの一回ごとの査定で加減できる幅は少額であるものの、被告会社の運用では、前回の支給額を基準に今回の昇(減)給の有無が決められるというのであるから、勤務成績の良好な者とそうでない者とでは、短期的にはともかく、長期間にわたって比較するときは大きな格差が生じてくる可能性がある。しかも、これらは職種、職分ごとに決定され、上位になるほど昇(減)給額も高額になるというのであるし、職務加給も職級によって定まり、上位に格付されるほど高額になるというのであるから、いかなる職種、職分、職級に位置付けられるかは賃金格差の原因としてきわめて重要な要素になっている。さらに、職種、職分と賃金との間に直接の関係は設定されていないが、職分昇任の推薦基準に職級が持ち込まれており、また職分昇任があった際には職級格付の見直しが行われるなどして、運用上は職種や職分と職級との間に一定の対応関係をもたせる運用がなされていると認められるのであるから、この意味でもいかなる職種、職分に位置付けられているかは職級の格付を通じて賃金に影響を及ぼすこととなる。
したがって、初任給が同額の同期入社の社員であったとしても、採用時の区分により、あるいはその後の変動によって職種、職分、職級が異なることになれば、賃金に格差が生じてくるし、それが長期間に及ぶことによってその格差は拡大され、著しいものとなることは十分考えられることである。
そして、専門職は一般職と比較すると、幹部候補要員を配置する職種と位置付けられ、その募集対象は大卒ないし高専卒とされていること、職種の分類基準や職分任用基準でも、一般職のそれと部分的には重なり合うところがあるとはいえ、より高度な知識、経験を要求され、裁量の幅も大きく、責任も重いとされていること、定期昇給の最低保証額や昇給幅は事務職ないし一般職より大きく設定され、適用される職級も一般職より上位とされていることなどからして、職種として一般職より上位に位置付けられていることは明らかである。
原告らが比較対象とする昭和四三年から昭和五二年にかけて事務職として採用された高卒男子は、採用後数年中にはすべて専門職に職種転換し、そのほとんどが管理職へと昇進していっているのであるから、現時点で比較すれば、これらの男子社員の賃金と未だ一般職にとどめられている原告ら女子社員の賃金との間には、前記のとおり著しい格差が生じていると認められるが、すでに職種、職分を異にしており、これに伴い職級にも相当の開きがあるものと考えられるし、採用から比較時点である平成一一年までで約二〇年ないし三〇年が経過していることを合わせ考慮すると、現時点で右のような賃金格差が生じていることは、被告会社の賃金制度からすると格別不可解なこととはいえない。
(2) そこで、次に問題となるのが、右の高卒男子事務職がすべて専門職に転換し、そのほとんどが管理職に昇進しているのに対し、原告ら高卒女子事務職が未だ一般職にとどめ置かれているという点である。
この点についても、被告会社は、社員の採用に関して、職種ごとに、全社採用と事業所採用という二種類の採用方法を使い分けており、この採用方法の違いによって、採用後の教育、研修、配置する職種等の処遇を異にしているのであるが、これは、被告会社が将来の幹部候補要員とする趣旨で採用する社員については、全国から募集し、選抜するために全社採用という採用方法を用いていることによるものであり、右の高卒男子事務職はすべて全社採用であり、中堅幹部候補要員としての位置付けで採用された社員であった。そのために、原告ら高卒女子事務職とは異なる高度の選考試験に合格することや役員面接を受けるなど、より厳しい採用条件で採用されている。
全社採用の高卒男子は、原告ら事業所採用の高卒女子と同様、事務職として募集、採用されているが、これは、そのころ被告会社が採用を始めた高卒作業職との均衡等労務管理上の配慮からで、被告会社では数年後には専門職に転換させることを当初から予定していたというものである。したがって、職種区分上は事務職とされているとはいえ、男子事務職は専門職に準じる社員として採用されているのであり、これと、被告会社が当初から定型的補助的業務に従事させることを予定して採用した高卒女子事務職とは、社員としての位置付けが明らかに異なっている。
実際の処遇においても、職種が異なるとはいえ、同じく事業所採用で採用された高卒の男子作業職と女子事務職との間には、管理職に占める割合に大差はないのに対し、全社採用によって採用された社員は現在すべて専門職または管理職である。また、賃金についても、全社採用の高卒男子事務職の平均賃金と原告ら高卒女子事務職の平均賃金との間に著しい格差が生じていることは前記のとおりであるが、他方、事業所採用の男子作業職と女子事務職との間にはさほど差がないのであって、高卒男子事務職との間に賃金格差が生じていることは、高卒女子事務職との間のみならず、高卒男子作業職との間でも同様にいえることである。これらによれば、被告会社が、全社採用か事業所採用かという採用方法の違いによって、社員の処遇を異にしていることは明らかである。
右のとおり、全社採用か事業所採用かの違いは、幹部候補要員として採用したか否かという被告会社における社員としての位置付けの違いを反映するものであり、社員の採用区分に相当するものと認められ、全社採用の事務職と事業所採用の事務職とは職種としての区分が異なるというべきであって、両者を同列に論ずることはできない。
したがって、幹部候補要員として採用された全社採用の高卒男子事務職が、数年後には全員専門職に転換し、その後さらに、そのほとんどが管理職に昇進したことは、一見年功序列的に見えるけれども、それは当初から予定されていたことであり、幹部としての育成のための研修、教育、仕事の配置等も行われて来たはずであるから右のようなほぼ一様な職種転換、昇任、昇進の経緯を辿るのもまた当然であったと考えられる。他方、原告ら高卒女子事務職は、定型的補助的業務に従事する社員という位置付けであるから、その多くが未だ一般職にとどめ置かれていることもまた当初から被告会社が予定していたことというべきである。その結果、現在では職種、職分、職級を異にすることになり、それが著しい賃金格差に繋がっているとしても、両者間には単に男女の違いというのみならず、社員としての位置付けの違いによる採用区分、職種の違いが存するのであるから、これを直ちに男女差別の労務管理の結果ということはできない。
(3) 以上に対し、原告らは、右のような採用区分の存在について何らの説明を受けていないことなどを理由に全社採用、事業所採用という社員の区分は存しないとしたうえで、さらに、専門職と一般職ないし事務職との職種区分には合理性がなく、男女を振り分けるための区分であり、男女差別の労務管理であると主張する。
ア 確かに、被告会社には、全社採用、事業所採用という社員の区分があることを記載した社内規程等は存しないし、原告らが採用される時点で採用区分が存すること等の説明はなされていない(これらは当事者間に争いがない。)。しかし、右のとおり、被告会社が全社採用、事業所採用という二種類の採用方法を使い分けて社員を採用していること、そしてその採用方法の違いによって社員の処遇を異にしていることは証拠上疑いのない事実であって、これを左右するに足る証拠は全く存しない。
また、企業が労働者を雇用するに当たって説明義務を負うのは、当該労働者との労働契約の内容となる労働条件についてであり、他の労働者の労働条件等について説明がなかったからといって、これらを均等に処遇しなければならないというものではない。原告らは、勤務地限定のある事務職という募集に応募し、事務職として採用されて現在でも事務職から移行した一般職として処遇されているのであるから、その処遇には原告らが締結した労働契約との齟齬はない。
原告らは、全社採用、事業所採用の区分に基づいた処遇が行われていない例証として、事業所採用の作業職の中には専門職に転換した男子が存すること、事業所採用の一般職女子で転勤を経験した者が存在することを主張する。
確かに、右認定のとおり、昭和四一年制度では、事業所採用の高卒の作業職のうちで専門職に転換した者が存するが、高卒男子事務職が全員専門職に転換しているのに対し、作業職で専門職に転換したのはごく一部(別紙13のとおり在職者の一割弱である。また、主査及び管理職補の中には専門職への職種転換を経由した者が含まれていると考えられるが、仮に主査及び管理職補の全員を含めても一割五分に満たない。)であり、それも設計等専門的業務に従事したという事情に基づく。他方、女子に専門職転換の前例が存しないのは、もともと被告会社における高卒女子事務職の位置付けが、勤務期間が短いこと等を理由にした定型的補助的業務に従事させる社員というものであったから、高卒事務職に専門職的な仕事を配置するということが殆どなかったことによるものと考えられる。
さらに、証拠(甲三八、証人高橋)によれば、原告らが指摘する一般職女子の転勤事例というのは、所属する部または課全体が移転したことによるものであり、しかも転居を伴わないで済む範囲内の事業所間異動に過ぎず、個別の業務上の必要から全国的規模で予定されている転勤とは全く事情を異にする。
以上のとおりであり、採用方法の違いによる社員区分が存在すること、その区分に基づいて異なる処遇がなされていることを否定する原告らの主張は採用できない。
イ また、専門職と一般職ないし事務職とは職種区分としての合理性を有しないとの主張についてみると、前記のとおり、確かに、部分的には職種の分類基準や任用基準には相互に重なり合うところがあり、仕事の質によって専門職の仕事と一般職ないし事務職の仕事とを整然と区別することには困難を伴うことが予想され、したがって、仮に、職種が、仕事の質的な相異のみを理由に分類されるべき区分をいうものだとすれば、専門職という職種には、一般職、作業職といった区分とは異なる要素が持込まれていることは否定できない。
しかしながら、被告会社の職種、職分制度では、管理職も一つの職種とされており、職種区分が仕事の質のみによって分類されているものでないことは明らかである。専門職と一般職ないし事務職とは、前記のとおり、仕事の内容のみならずそこに配置する社員の位置付けを異にしているのであって、専門職は一般職より上位の職種とされているのである。そして、被告会社は、全社採用、事業所採用という採用方法の違いによって幹部候補要員か否かという社員の区分を行、この区分に応じて専門職と一般職とを振り分けているのであり、現在では全社採用の大卒女子も専門職に配置しているのであるから、その区分が男女別労務管理と不可分というものではなく、したがって、職種区分としての合理性を有しないという原告らの主張は採用できない。
ウ そのほかにも、原告らは被告会社が男女別労務管理を行っていることの根拠として、中途採用者の初任給テーブルの男女別の設定、初任時の職級の男女別特例、結婚や出産に際しての退職勧奨等がなされた事例、勤続女子に対する不利益処遇等を縷々主張する。
しかしながら、原告らが本訴請求の請求原因としているのは、同じく高卒で採用された事務職男女間で男女差別の処遇が行われているというものであり、右に縷々主張する事情は、いずれも、本件で原告らが問題としている同じ高卒事務職男女間での処遇の違いという男女差別の有無とは直接の関係を有するものではなく、あくまで、男女差別処遇の有無を判断する間接事実に過ぎない。
しかるに、原告らが主張する高卒事務職男女間における処遇の格差が、幹部候補要員か否かという社員の区分とこれに基づく異なる処遇の結果であることはすでに述べたとおりであり、仮に原告ら主張の右諸事情がすべて認められたとしても、被告会社が採用している全社採用、事業所採用という採用による社員の区分の存在やこの区分に基づいて被告会社が社員間に異なる処遇を行ってきたという事実は覆せるものではない。
3 男女差別の存否
(一) ところで、原告らが主張する高卒事務職男女間の処遇の格差が、全社採用、事業所採用という社員の区分に基づくものであったことは、もはや明らかであるが、被告会社は、高卒の全社採用はすべて男子から募集し、女子を採用することはなかった。また、同じく高卒の事業所採用であるにもかかわらず、男子作業職には専門職への職種転換をさせながら、女子事務職には、専門職へ職種転換させることがなかった。その理由は前記認定のとおり、女子の転勤に対する昭和四〇年ころの社会意識、女子の一般的な勤務期間、労働基準法上の保護規定による労働時間等の制約から、被告会社が高卒女子を定型的補助的業務に従事する社員と位置付け、区分したことによるものであった。
結局、高卒女子は、女子であることを理由に全社採用の対象から排除されていたのであり、専門職への職種転換の対象からも排除されていたのであって、被告会社は、高卒女子の社員としての位置付けを通じて間接的には男女別の労務管理を行っていたといわなければならない。
企業は、いかなる労働者をいかなる条件で雇用するかについて広範な採用の自由を有するから、あらかじめ、募集する労働者の社内での位置付けを行い、社員間に区分を設けて、採用の当初からその区分に応じた異なる処遇を行うことは企業が自由に行いうることであるが、かかる採用の自由も、法律上の制限がある場合はもちろんのこと、そうでない場合でも基本的人権の諸原理や公共の福祉、公序良俗による制約を受けることは当然であり、不合理な採用区分の設定は違法になることもあるというべきである。
被告会社が、一方で幹部候補要員である全社採用から高卒女子を閉め出し、他方で事業所採用の事務職を定型的補助的業務に従事する職種と位置付け、この職種をもっぱら高卒女子を配置する職種と位置付けたこと、その理由も結局は、高卒女子一般の非効率、非能率ということによるものであるから、これは男女差別以外のなにものでもなく、性別による差別を禁じた憲法一四条の趣旨に反する。
しかしながら、憲法一四条は私人間に直接適用されるものではなく、労働基準法も男女同一賃金の原則(四条)は規定しているものの、採用における男女間の差別禁止規定は有していない。いうまでもなく、憲法一四条の趣旨は民法一条一項の公共の福祉や同法九〇条の公序良俗の判断を通じて私人間でも尊重されるべきであって、雇用の分野においても不合理な男女差別が禁止されるという法理は既に確立しているというべきであるが、他方では、企業にも憲法の経済活動の自由(憲法二二条)や財産権保障(憲法二九条)に根拠付けられる採用の自由が認められているのであるから、不合理な差別に該当するか否かの判断に当たって、これらの諸権利間の調和が図られなければならない。
このような観点から検討すると、昭和四〇年代ころは、未だ、男子は経済的に家庭を支え、女子は結婚して家庭に入り、家事育児に専念するという役割分担意識が強かったこと、女子が企業に雇用されて労働に従事する場合でも、働くのは結婚又は出産までと考えて短期間で退職する傾向にあったこと、このような役割分担意識や女子の勤務年数の短さなどから、わが国の企業の多くにおいては、男子に対しては定年までの長期雇用を前提に、雇用後、企業内での訓練などを通じて能力を向上させ、労働生産性を高めようとするが、短期間で退職する可能性の高い女子に対しては、コストをかけて訓練の機会を与えることをせず、定型的補助的な単純労働に従事する要員としてのみ雇用することが少なくなかったこと、女子に深夜労働などの制限があることや出産に伴う休業の可能性があることなども、女子を単純労働の要員としてのみ雇用する一要因ともなっていたことなどが考慮されなければならない。
右に述べた諸事情は公知の事実というべきであって、現に、昭和四〇年から昭和五二年までに採用された高卒女子事務職の在職率は、前記のとおり、わずか約2.7パーセントに過ぎない。
採用における男女差別が、実定法上初めて禁止されたのは平成九年に均等法を改正した「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保に関する法律」五条によってであり、均等法七条ではこの点は事業主の努力義務にとどめられていたことも、右のような社会意識の存在を配慮したものと考えられる。
右のような男女の役割分担意識は現在では克服されつつあり、もはや一般化できなくなってきており、また、女子の労働に対する考え方も多様化して女子の勤務年数も次第に長期化してきているから、現時点では、被告会社が採用していたような女子事務職の位置付けや男女別の採用方法が受け入れられる余地はないが、原告らが採用された昭和四〇年代ころの時点でみると、被告会社としては、その当時の社会意識や女子の一般的な勤務年数等を前提にして最も効率のよい労務管理を行わざるをえないのであるから、前記認定のような判断から高卒女子を定型的補助的業務にのみ従事する社員として位置付けたことをもって、公序良俗違反であるとすることはできない。
そうであれば、女子のみを定型的補助的業務と位置付けることは、今日では許されないものではあるが、原告らを補助的業務の要員として採用し、その後、そのように処遇してきたことには違法な点はないというべきであり、幹部候補要員として扱われないという意味では高卒男子の作業職についても同様であって、前述のように高卒女子事務職と高卒男子作業職との間には不合理な差別は認められず、また、専門職には転換できないとしても管理職になる途はあるわけで、原告ら高卒女子事務職の採用後の処遇についても公序良俗に反するものではないというべきである。
したがって、被告会社が、原告ら高卒女子を専門職ないし専門職転換が予定された全社採用事務職の募集対象としなかったこと、社内の位置付けでも、定型的補助的業務に従事する社員として専門職への転換の機会を与えなかったことをもって違法とすることはできない。
(二) 以上のほかにも、原告甲野は、会議出席を認められないこと、原告乙山は日帰り出張を認められず、または男子同伴を義務付けられることが、いずれも被告会社による男女差別であるとして主張している。
しかしながら、会議の出席者の選定や出張の必要性などは、被告会社が主張するとおり、日常業務の問題であり、業務遂行の責任者である上司が個別に判断すべきことである。女子社員に対し組織的な会議出席の制限や出張の制限がなされているなどという事情が存するならばともかく、原告らがいう会議出席制限や出張制限が女子であることを理由になされたと認めるに足る証拠は全く存しない。
(三) 以上のとおりであり、原告らが女子差別であると主張する高卒女子事務職と事務職として採用された高卒男子との間の研修教育の違い、配置の取扱いの違い、職分昇任の違い、職級昇格の違い、職種転換の違い、管理職昇進の違いなどはいずれも社員としての区分ないし職種の違いによるものと認められるし、原告ら高卒女子には全社採用で採用される機会や専門職に転換する機会は与えられていなかったけれども、これを違法な男女差別の労務管理ということはできず、さらに原告甲野に対する会議出席制限や原告乙山に対する出張制限が女子差別としてなされたと認めるに足る証拠はなく、したがって、被告会社の男女別労務管理が債務不履行及び不法行為に該当するとして損害賠償を求める原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。
二 争点2(被告会社に対する予備的請求―是正義務違反)について
1 是正義務の発生について
原告らは、社会意識の変化等を理由に、第一次的には、被告会社が男女別定年制を廃止した昭和五四年の時点で、第二次的には、採用における男女の均等取扱いを義務化した均等法が施行された昭和六一年時点で、それまでの男女別労務管理を是正すべく原告ら高卒女子事務職に専門職への職種転換審査を実施する義務が生じたと主張する。
しかしながら、まず第一に、前記のとおり、被告会社が行っていた全社採用と事業所採用という採用方法の使い分けは、社員の区分に基づくものであり、全社採用の事務職と事業所採用の事務職とは職種において異なるものであったというべきである。この点で、同一の募集に応募し、同一の採用条件を満たした上で採用されながら、採用後に性別の違いを理由として異なる処遇を受けたという場合とは明らかに異なる。
第二に、原告ら高卒女子は、全社採用は男子のみ、事業所採用は女子のみという被告会社の男女別採用によって、全社採用の事務職に採用される機会を与えられなかったが、そのような男女別の採用方法は、前記のとおり、当時としては公序良俗に反するものとはいえないものであり、違法なものではなかった。原告らは全社採用の事務職に応募して不採用となったわけではなく、事業所採用の事務職に応募してそれに採用され、そこで予定されていた処遇を受けているものであって、制度上管理職に登用される途もあり、その処遇は違法性を帯びるものではない。
前記のとおり、現在では全社採用において同じ高卒であるにもかかわらず、女子のみに採用の機会を与えないことは、合理的な理由のない男女差別に該当すると考えられるから、仮に、被告会社がその後も、右のような男女別の採用方法をとり続けたとしたら、現在に至るまでのいずれかの時点で、このような男女別の採用方法が公序良俗に反する違法なものと評価されることになるが、その際、被告会社に課せられる是正義務は、その時点で、右のような男女別採用を改め、それ以後、採用において女子にも均等な機会を与えるようにする義務に過ぎないというべきである。原告らの主張は結局のところ、被告会社が過去に行ってきた、当時としては違法とはいえなかった採用方法やそれに基づく処遇までも現在の違法性の判断基準に照らし、過去に遡って評価し直し違法評価を行うものというほかなく、法的安定性を害する。
第三に、原告らが主張する是正義務の内容は、専門職への転換を希望する高卒女子事務職に対し、すでに採用された高卒男子事務職と同様の教育、訓練、配置を行ったうえ、さらに長年受審が認められてこなかったことが不利益とならないよう試験内容は職務と関連したものに改定して職種転換審査を実施すべきというものであり、これでは、ほとんど専門職への転換とそれに見合う処遇という結果を要求しているのと異ならないのであって、結果の平等を求めているに等しい。
もともと、高卒男子事務職は、原告ら事業所採用の女子事務職とは異なり、より厳しい選考試験等に合格してきた社員であり、しかも少人数しか採用されていないのであるから、仮に、高卒女子をも採用の対象にしていたとしても、その当時の選考試験に合格して採用にまで至る女子はさらに少数の限られた者になったと考えられる。高卒男子事務職が幹部候補社員として採用後に受けた教育や仕事の配置などの処遇は、右のような選考試験等にも合格して採用された蓋然性が高い者であって初めて要求できることというべきであり、採用の機会を与えられなかったということから、現実には事業所採用の選考試験にしか合格せず、あるいは縁故によって採用された原告ら高卒事務職に対し、希望しさえすれば当然に男子事務職に対してしたと同等の教育、訓練等を施さなければならないとする理由はない。そして、原告らが全社採用の事務職に採用される蓋然性の高かったことを認めるに足る証拠もない。
また、専門職に職務転換すれば専門職としての仕事の配置があるのであるから、転換審査においてはそれに応じられる能力を有するか否かが試されるのは当然のことであり、長年の受審が認められなかった不利益があるからといって、これを救済するために試験内容改訂の義務が生じるものでもないというべきである。
2 以上のとおり、いずれの観点からしても、被告会社には原告らが主張する是正義務の発生を認めることはできず、原告ら主張の是正措置を採らなかったことが女子差別撤廃条約に反するものでもない。
したがって、その是正義務違反が債務不履行及び不法行為に該当するとして損害賠償を求める原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。
三 争点4(被告国に対する請求―本件不開始決定の違法性)について
1 採用区分を理由とする指針違反否定が誤りであるとの主張について
原告らは、指針二(1)イが、募集、採用に当たって、「募集・採用」ごとに女子を排除しないようにすべきことを求めたのは、均等法にない限定を持込んだものであり、さらに、本件調停申請に対し、大阪婦人少年室長が、昇進における男女差別の有無を判断するに当たって、採用区分の違いを理由に本件不開始決定をしたことは、配置、昇進について指針にすらない「募集・採用」区分ごとに判断するという限定を持込んだものであり、違法であると主張する。
しかしながら、指針二(1)イが、募集、採用ごとに女子を排除しないよう求めたのは、現に採用区分を設けてコース別人事管理などが行われている現状に照らすと、単に、募集、採用に当たって女子を排除しないこととしたのでは、女子差別を排除するに不十分と考えたことによるものと解され、何ら均等法の趣旨を限定するものではない。
また、均等法八条が事業主に求める配置、昇進についての均等取扱いは、結果の平等ではなく、機会の平等を意味するものであり、機会が均等か否かは、被告国が主張するとおり、条件が同一の男女間で判断されるべきことである。事業主が採用区分を設定してコース別の人事管理を行うのは、労働者の活用のため、採用後の勤務条件や処遇を異にしているからであり、そのため、採用条件(学歴、経歴、選考試験の難易等)も採用区分に応じて異なっているのが通常である。そのような場合に、採用条件や採用後の勤務条件、処遇の異なる労働者間での昇進の違いを比較しても、そこに差があるのはむしろ当然のことであり、それをもって差別と称することはできない。
採用区分の設定が合理的か否かはこれとは別個の問題である。
したがって、大阪婦人少年室長が、採用区分ごとに差別の有無を判断しようとしたことには何ら違法はない。
2 被告会社の男女別採用を採用区分としたことの誤りであるとの主張について
(一) まず、原告らは、被告会社の専門職と事務職との区分は採用区分とはいえないし、仮に採用区分であったとしても、同じ事務職でありながら男子のみを専門職にしたことは均等法八条違反であると主張する。
しかしながら、前記のとおり、昭和四一年制度における専門職と事務職とでは、幹部候補要員か否かという被告会社内部における社員としての位置付けを異にしており、そのため、採用条件はもとより、採用後に従事する業務、採用後の処遇を異にしており、被告会社ではこのような職種ごとに社員を募集、採用しているのであるから、まさに、採用区分に相当する。そして、同じ事務職であったとはいえ、男子事務職も専門職同様、被告会社内部では幹部候補要員として位置付けられ、採用方法も事業所採用である女子事務職とは異なり、勤務地の限定のないものとして全社採用の方法で採用され、異なる選考試験に合格するなどしてきているのであるから、このような全社採用の事務職と事業所採用の事務職との違いもまた採用区分に相当するものというべきである。
したがって、大阪婦人少年室長が、事務職で採用され後に転換した者も含め、原告らが比較対象であると主張した専門職男子と、昭和四一年制度の事務職からそのまま移行してきた現行制度の女子一般職との間に採用区分の違いがあるとしたことに判断の誤りはない。
また、これに関して、原告らは、専門職出身の管理職割合と一般職出身の管理職割合に著しい格差が存することを問題としているが、右のとおり、専門職と一般職とでは採用区分が異なるのであるから、その間で管理職割合に格差があるとしても、これをもって均等法に違反する男女間の昇進差別の問題とすることはできない。
(二) そこで、次に、原告らは、男子は全社採用、女子は事業所採用という採用区分自体が男女別労務管理であり、違法な男女差別であるとし、このことを前提として、女子差別撤廃条約等を根拠に、指針にいう採用区分には右のような違法な男女差別を含まないものと解すべきである等と主張する。
しかしながら、すでに述べたとおり、原告らが採用された昭和四〇年代ころの社会情勢等に照らすと、被告会社が、高卒女子を全社採用の事務職の募集対象としなかったことは、当時としては未だ公序良俗に反するとまではいえず、したがって、違法とはいえなかったのであって、原告の右主張はその前提において既に採用できない。
原告らは、被告会社の事務職の採用区分が、少なくとも均等法施行後には違法になったとし、また、女子差別撤廃条約が、男女差別の効果をもたらすものについてもその撤廃を求めているなどとして、右採用区分の違法性を主張するのであるが、これは条約の批准以前、あるいは均等法施行以前に行われた当時としては違法とまでいえなかった採用区分に、右条約や均等法を当て嵌めて評価しようとするものであるから、遡及適用以外のなにものでもない。右条約や均等法には遡及効はなく、この点の原告らの主張も採用できない。
3 そうすると、本件不開始決定が違法であるとする原告らの主張はいずれも採用できず、したがって、右主張を前提にして被告国に損害賠償の支払を求める原告らの請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。
四 結論
以上のとおり、原告らの請求はいずれも理由がないのですべて棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・松本哲泓、裁判官・松尾嘉倫、裁判官・西森みゆき)
別紙
1~5<省略>
10~21<省略>
別紙6
職種職分表1
旧制度
職掌
職種
職分
管理社員
管理社員(1級)
管理社員(2級)
管理社員(3級)
執務社員
事務員
主事補
事務員(1級)
事務員(2級)
事務員(3級)
事務補
技術員
技術員(1級)
技術員(2級)
技術員(3級)
技術補
作業社員
作業員
工師
工手(1級)
工手(2級)
作業員
養成工
特務社員
保安員
係長補佐
主任
担任
分任
保安員
庶務員
庶務員(1級)
庶務員(2級)
庶務員(3級)
医務社員
医師
医務員
医務員(1級)
医務員(2級)
医務員(3級)
職種職分表2
昭和41年制度
職種
職分
管理職
管理職(1級)
管理職(2級)
管理職(3級)
専門職
管理職補
専門職(1級)
専門職(2級)
専門職
事務職
事務職(1級)
事務職(2級)
事務職
作業職
工師
工手(1級)
工手(2級)
作業職
保安職
係長補佐
主任
分任
保安職
庶務職
庶務職(1級)
庶務職(2級)
庶務職
医務職
医務職(1級)
医務職(2級)
医務職
職種職分表3
現行制度
職種
職分
経営職
管理職
主幹
主席
主査
専門職
管理職補
専門職(1級)
専門職(2級)
専門職
一般職
管理職補
一般職(1級)
一般職(2級)
一般職
技術職
管理職補
統括職
監督職
指導職
技術職
専任職
別紙7 住友電工における職種の変遷
別紙8 昭和41年制度任用基準
専門職
事務職
職分
任用基準
職分
管理職補
定められた上長の一般的監督を受けながら、特に高度の専門知識及び経験を基として、主として調査・研究・企画・設計・指導・調整・監査又は体内外折衝その他の中、絶えず新たな判断を要する重要且つ困難な職務に従事し、その責任を負う者及び法に定められた医師としての資格を所持し、その専門的知識及び経験によって傷病の診断・療養の指示・疾病の予防その他診療所の業務遂行に当たる者、又はこれらの職務を遂行するのに充分な知識・経験及び能力を有すると認められる者
専門職
一級
定められた上長の一般的又は直接的監督を受けながら、高度の専門知識及び経験を基として、主として調査・研究・企画・設計・指導・調整・監査又は体内外折衝等の重要且つ困難な職務に従事し、事柄によってはその責任を負う者、又はこれらの職務を遂行するのに充分な知識・経験及び能力を有すると認められる者
事務職
一級
定められた上長の一般的又は直接的監督を受けながら、事務管理上の高度の知識及び経験を基として下位職分の事務職を指導しながら、主として重要複雑な計算・記帳・統計等及び時に調査・研究・体内外折衝等の複雑困難な職務に従事し、事柄によってはその責任を負う者、又はこれらの職務を遂行するのに充分な知識・経験及び能力を有すると認められる者
専門職
二級
定められた上長の直接的又は一般的監督を受けながら、専門知識及び経験を基として、主として調査・研究・設計・調整・監査又は体内外折衝・複雑な計算・統計・記帳その他の複雑困難な職務に従事し、事柄によってはその責任を負う者、又はこれらの職務を遂行するのに充分な知識・経験及び能力を有すると認められる者
事務職
二級
定められた上長の直接的又は一般的監督を受けながら、事務管理上の知識及び経験を基として下位職分の事務職を指導しながら、計算・記帳・統計・整理・筆記等の事務に従事し事柄によってはその責任を負う者、又はこれらの職務を遂行するのに充分な知識・経験及び能力を有すると認められる者
専門職
定められた上長の直接的監督を受けながら、専門的知識及び経験を以て、主として定められた方法・手続きに従って調査・研究・計算・設計・統計・整理その他の職務に従事する者
事務職
定められた上長の直接的監督を受けながら、事務管理上の知識及び経験を以て、主として定められた方法・手続に従って計算・記帳・統計・整理・筆記等の職務に従事する者
別紙9 現行制度任用基準
専門職
一般職
職分
任用基準
職分
任用基準
管理職補
定められた上長の一般的監督を受けながら、特に高度の専門知識及び経験を基として、主として調査・研究・開発・企画・設計・指導・調整・監査及び体内外折衝その他の内、絶えず新たな判断を要する重要且つ困難な業務に従事し、その責任を負う者、又はこれらの職務を遂行するのに充分な知識・経験及び能力を有すると認められる者
管理職補
左に同じ
専門職
一級
定められた上長の一般的又は直接的監督を受けながら、高度の専門知識及び経験を基として、主として調査・研究・開発・企画・設計・指導・調整・監査及び体内外折衝その他の内、重要且つ困難な業務に従事し、事柄によってはその責任を負う者、又はこれらの職務を遂行するのに充分な知識・経験及び能力を有すると認められる者
事務職
一級
定められた上長の一般的又は直接的監督を受けながら、高度の知識及び経験又は特定の資格・技能を基として、下位職分の一般職を指導しながら、主として計算・記帳・統計・コンピュータ等の事務的業務、警備・防災・防犯等の保安業務、車輛運転・受発信・電話交換等の業務、看護保健等医師を補助する業務及び時に調査・研究・体内外折衝等の複雑困難な業務等に従事し、事柄によってはその責任を負う者、又はこれらの職務を遂行するのに充分な知識・経験及び能力を有すると認められる者
専門職
二級
定められた上長の直接的又は一般的監督を受けながら、高度の専門知識及び経験を基として、主として調査・研究・開発・設計・調整・監査・体内外折衝・複雑な計算・統計その他の複雑困難な業務に従事し、事柄によってはその責任を負う者、又はこれらの職務を遂行するのに充分な知識・経験及び能力を有すると認められる者
事務
二級
定められた上長の直接的又は一般的監督を受けながら、一般的知識及び経験又は特定の資格・技能を基として、計算・記帳・統計・コンピュータ等の事務的業務、警備・防災・防犯等の保安業務、車輛運転・受発信・電話交換等の業務、看護保健等医師を補助する業務等に従事し、事柄によってはその責任を負う者、又はこれらの職務を遂行するのに充分な知識・経験及び能力を有すると認められる者
専門職
定められた上長の直接的監督を受けながら、専門的知識及び経験を基として、主として定められた方法・手続に従って調査・研究・開発・設計・計算・統計・整理その他の業務に従事する者
事務職
定められた上長の直接的監督を受けながら、一般的知識及び経験又は特定の資格・技能を基として、計算・記帳・統計・コンピュータ等の事務的業務、警備・防災・防犯等の保安業務、車輛運転・受発信・電話交換等の業務、看護保健等医師を補助する業務等に従事する者